第12話
翌日、私はいつも通りに学園に向かった。一人だけで学校に戻るのも、これで四度目だ。
周りの人間はまた私を責めるだろう。責めるなら幾らでも責めればいい。一緒に出撃した彼女たちは、一人、こうして生き返った私を責めることもできないのだから……。
「やっぱりあの子生き残ったんだ。もしかして一人だけ逃げてるんじゃない?」
「どういう神経してるんだろうね」
「これでもう十人以上も仲間が死んでるのに、良く自分だけ生きて帰ってこられるよね」
「悪いとか思わないのかな? 私だったら世を儚んで自殺してるな」
学園の女子たちが、わざと聞こえるように陰口を叩いている。聞こえているが、私はこれまで通りに聞こえない振りをしていた。いちいち相手にしていたらそれこそキリがない。
「あの三人もこれじゃあ浮かばれないよね。犬死にみたいなものだもんね」
私の足が止めた。一瞬で体中の血が熱くなった。私のことならなんとでも言えばいい。
だけど、あの三人を犬死にだなんて許せない。三人の死を侮辱なんてさせない。
こんな連中は相手にしてはいけない。それはあの三人にとって侮辱でしかない。
それは分かっている。分かっているのに、私は自分で自分を止められなかった。
私が女生徒に詰め寄ると、女生徒は足を止めて怯んだ。
「言いたいことがあるなら、はっきり言えばいいじゃないですか! 私が死ねば良かったって! あの三人が犬死にだなんて戦場にも出たこともないくせに、良く言えますね!」
怯んでいた女生徒は瞳を見開くと、頭一つ高い位置から私を睨みつけてくる。
「だったら言うわよ! 天才とか言われて、軍人にも先生たちにもちやほやされて、目障りなのよ! そんなに強いなら、ちゃんとみんなを守りなさいよ! 何度も死なせて、自分だけ帰ってきて! 何が天才よ! 逃げるのがうまいだけなんじゃないの?」
女生徒は私の胸倉を掴むと声を張り上げた。つまらない嫉妬と、八つ当たりだ。
こんな低俗な考えしか持たないものが、彼女たちを侮辱したと思うと、怒りが倍増化した。
「私だって! 私だって! 一人も死なせたくなんてなかった! 代われることなら代わりたい! 私が死んだら逃げてっていつも言ってるのに、みんなに言ってるのに! それでも誰も逃げてくれなくて! 私の死を目の当たりにしてさらに戦うみんなの気持ちがあなたにわかりますか? みんなの遺体を見届けなきゃならない、私の苦しみが分かるんですか?」
こんなことは無駄で無意味だと知りながらも、自分が止められない。私は名も知らない同学年の女生徒の手首を握り締めると捻りあげて、私の胸倉から離させた。
「いてててて! 離せよ! この!」
女生徒が声を張り上げて暴れるが、私の手を離させるには至らない。
「離しなよ! なんなんだよ! いきなり!」
一緒にいた黒髪のオカッパの女生徒が、ハンドガン型エクシードを向けて声を張り上げる。
エクシードの銃口の奥に波動の光が見えたが、直撃してもたいした負傷は負わない。
波動術者の私にエクシードを向けたところで、脅しにさえならないのだ。
「あなたにそれが撃てますか? それを撃つ覚悟があるんですか?」
私はオカッパの少女を睨みながら、女生徒の腕をさらに絞り上げると、鈍い音が響き渡った。
女生徒が悲鳴を上げて蹲り、オカッパの少女は引き鉄に指を掛けるが、結局は引けずに銃型エクシードを握ったまま手を激しく震わせている。
やはり的は撃てても、人を撃つ覚悟もできていないようだ。
「いい加減に離せよ!」
結局オカッパの少女はエクシードを撃てずにしまい、それを誤魔化すように声を張り上げると、女生徒を掴む私を離させようと掴みかかってきた。
私は女生徒の手を引いてオカッパの少女に向けて突き飛ばすと、二人は縺れ合いながら今は使われてない教室に倒れ込んでいった。
「あ、そこは!」
他の女生徒の声の呟く声が聞こえたが、私は無視して二人を追って教室に入った。
しかし、教室に入った途端、私は瞳を見開いて息を飲み込み、驚愕して動けなくなった。
教室内は四方を暗幕で覆われて真っ暗だった。教室の端には祭壇が置かれて三人の写真が並べられ、山ほどの献花に囲まれている。
他にも部屋中に三人の写真が貼られ、生徒が三人との別れを惜しんでいるのが分かる。
私は膝に力が入らなくなって、腰が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。
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