第11話

そして、私はまた、生き返ってここにいる。

エクシードもバトルスーツも吹き飛ばされ、体も粉々に弾け飛んだはずなのに、幼き頃に掛けられた秘術のせいで、体だけが数時間前に戻っている。これはもう呪いだ。

私は三人の亡骸の前で顔を上げられずにいた。仲間を死なせてしまったのはこれで四度目だ。

生き返りなんかしないで、ここでみんなと終われていたら、どれだけ楽だったか……。

「連れて帰るんだろう? 本隊は撤退した。お前ももう休め」

 背中から毛布を掛けられて、大人の男性に優しい声を掛けられた。

 それで私は自分が裸なのに気付いたが、そんなことはどうでも良かった。

 担架に乗せられ、毛布を掛けられて、連れて行かれる三人を私は黙って見送った。

 イエタリワヂーの要塞は、無傷のままでそこに聳え立っている。

 私は攻め込みたい衝動に駆り立てられたが、体に力が入らず断念した。

 全身が震えるほどの悔しさが込み上げて来て、地面に爪を立てて握り締めた。

「担架用意するか?」

 私の様子を見ていた軍人さんが気を使って訊ねてくれたが、私は首を横に振って答える。

 みんなはもう、傷みも辛さも悲しさも、感じることさえできないのだ。

私は、みんなの分までこれを抱いて生きていかなければならない。

 軍の船に乗り、みんなの遺体は学園の教師に引き渡された。学園でみんなに祈りを捧げられた後に、火葬され共同墓地に埋葬される。

 私は葬儀には出席しない。みんなが安らかに眠る場を、他の生徒が向けてくる私への憎しみの念と、恨みの言葉で汚したくないからだ。

 その代わりといってはなんだが、この時間を使って私には行く場所があった。

 街の裏町を歩き、路地裏にある廃ビルの地下室。そこに私が最近見つけた刺青屋さんがある。

 ドアをノックすると、扉が開かれ中から顔に蝶の刺青をした三十代後半の女性が顔を出した。

「またきたのかい。入んな」

 顎でしゃくられて店の奥へ導かれる。奥にはベッドがあり、私は服を脱いで上半身だけ裸になると、うつ伏せになって寝転んだ。

「これを」

 私はメモを取り出すと女性に手渡した。女性はメモを広げると、微かに眉を潜めた。

「今回は三人かい……。あいよ……」

 私の背中には、左肩から順に人の名前の刺青が入っている。肌の色に近い色で入っているため、誰にも気付かれない。もちろん、一緒に出撃をした彼女たちの名前だ。

ただの自己満足でしかないが、私は彼女たちの名前を体に刻んで一生背負っていこうと思う。

 刺青屋の女性は、私の背中にロルナレン、ミーナ、ソシリアの名前を新たに彫っていく。

「一人であんまり背負い込むんじゃあないよ」

 私の希望通りに名前を彫りながらも、女性は静かに言ってくる。未成年には彫らないと、一度は断られたが、事情を話したら幾つかの条件のもとに、特別に彫って貰えることになった。

 だから、彼女はこの三人と私がどんな関係で、どうなった人たちなのかも知っている。

 三人の名前を背中に彫り終え店から出ようとしたとき、女性が呟くように言った。

 私はどう答えていいのか分からず、無言でお辞儀をすると施設に戻った。

 施設までの道を歩きながら周囲を見回す。

あの三人がいなくなったのになに一つ変わらずに回っている世界に怒りを覚えながらも、その半面でどこか安心していた。

 もしも自分がこの世界から消えてなくなっても、世界にはなんの影響もないと思えるからだ。

 今日は学園には行かず、四人でまた見ようと約束した夕日を見にきていた。

 あの時と同じように、融けるような真っ赤で巨大な夕日が、西の山の向こうに沈んでいく。

「来たよ……」

 それが、三人のために私ができる唯一のことだと思った。私はここにみんなの思いを連れてくることができただろうか? きっと一緒にこの夕日を見てくれているのだと信じたかった。

 この日はこの場でキャンプをした。思い出の場所に敢えて一人でいることで、もう三人はこの世のどこを捜してもいないことを自分に思い知らせるためだ。

 三人に思いを馳せるのはこれで最後だ。明日にはもう過去の思い出にしよう。

 もう四度目だというのに、溢れ出してくる涙を止める方法が分からず一人で咽び泣く。

 だから、今日くらいは三人との思い出に浸るのを許して欲しい。あと少し、もう少しだけ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る