第9話

私たちが配属されたのは、ドゥイミヲト連邦国の最北にあるヘラワトという場所だった。

 イエタリワヂー公国との国境沿いの地であり、イエタリワヂー公国はドゥイミヲト連邦国の侵略に備えて、強固な要塞を構えている。

 今回の私たちに与えられた任務は、この要塞を陥落させる兵として攻め込むことである。

 作戦としては、私たちで数分間相手の目を引きつけている間に本隊が攻め込むというものだ。エクシードを身につけている今、要塞の戦力を考えても数分なら十分に可能な任務だ。

 四度目にしてやっと、本当にみんなで帰れる。私は本気でそう思って嬉しくなった。

 正面から本隊が攻めて注意を引き、要塞の射程内に入る直前で、別働隊として近付いていた私たちが脇から攻撃を仕掛けるという作戦だ。国境沿いということもあって整地もほとんどされてなく、脇道には木々が生い茂っていて姿を隠すにはちょうどいい。

 私たちは目立たないように飛行はしないで、縦一列に四人で並んで要塞を目指した。

 イエタリワヂー公国は波動の技術はそれほど発達していない。エクシード開発も後進国だ。

「後どのくらいでその要塞に着くの? もう結構走ってるよね?」

 ただ走るだけなのに飽きたのか、ソシリアが聞いてきた。

「そうねぇ、距離的にはまだまだあるけど、この速度ならもうそんなには掛からないわよ」

 ヘッドギアからゴーグルを出してロルナレンが答える。このゴーグルは中々高性能で、目的地までの距離から仲間の戦陣、敵の生体反応まで把握することができるのだ。

「要塞って言うくらいなんだからきっと見ればすぐに分かるわよ。黙って走りなさいよ!」

「聞いてみただけじゃん。ミーナはすぐに怒る」

 緊張をしているのか、いつも以上に怒りっぽくなっているミーナをソシリアが茶化す。

 会話をすることでミーナの張り詰めていた気配が、少しだけ弛んだような気がした。

 もしかしたらソシリアは、これが目的で話しかけたのかもしれない。

「やさしいですね。ソシリアは」

「えっ、あははは、そんなこと、ちょっとだけあるかな?」

「それは勘違いだよ、シュリちゃん。こいつはただ、アホで愚痴っぽいだけ!」

 私が笑って言うとソシリアは照れながらも肯定し、ミーナは呆れた顔で否定をしてきた。

「私たちの気持ちを敢えて代弁してくれているわよね。みんな同じことを思っているもの」

 ロルナレンは私に同調しながらも、微笑ましそうに見守っていた。

 四人でいつも通りの会話を交わしながら、私たちは今にも崩れそうな岩の道を進んだ。

 それから程なくして、自然の岩山を利用して作られたダムのような要塞が見えてきた。

 どうやら私たちのほうが早く着いてしまったらしい。仲間の部隊が来るまでここで待機だ。

 四人で戦陣を組んで戦闘スタイルを再確認していると、要塞に動きがあった。

 陽動の部隊が到着したのだ。要塞の至る所から小窓が開いて、大砲や銃火器が顔を出す。

 見る限りやはりエクシード兵器はほとんどなく、旧時代の実弾兵器ばかりである。

 あんな兵器では、攻撃がエクシードの鎧を身につけている軍人に直撃したところで、大した被害は出ないだろう。時間が来て私たち四人のアラームが一斉に鳴り響いた。

「いきましょう!」

 私が声を掛けると、三人は緊張を浮かべた表情で頷いて、エクシードに波動を注ぎ込む。

 戦陣を切るように、ソシリアが大砲型エクシードに波動を注ぎ込み、波動の砲撃を放った。

 その瞬間、作戦には考慮もされていなかった想定外のことが起きた。

 波動の砲撃は要塞に炸裂することなく、見えない壁に阻まれたように搔き消されたのだ。

「いけない!」

 私は瞬時に状況を悟って声を張り上げた。相手に、波動術者がいると理解したのだ。

 エクシードを使いこなす騎士は人間を超えたものと呼ばれているが、波動術者は『オーラバトラー』とも言われ、神とさえ称されている。

 エクシードの補助なしで波動を自在に使いこなすというのは、それだけで特別なことなのだ。

 要塞から、一人の青年が飛び出してきた。エクシードを装備もせずに、飛行用具さえなにも装着していないのに、空を自在に舞っている。

「無駄に争いを拡散させる悪しきものどもよ、オレが貴様らを断罪する!」

 手に持った緑の光を放つ波動の槍を回転させて身構え、男は高らかに宣言をした。

 私には男の姿が少年に見えた。恐らくは十代後半、高校生か大学生くらいだろう。

 しかし、その少年から発する波動は台風のように強大で、私には悪魔のように思えた。

 波動を纏う槍を高速で回転させて、構えを取ると軍の部隊に向かって突進を仕掛ける。

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