第8話

緊張しながらも、私は大きく息を吸い込むと、ゆっくりと口を開いた。

「私の生まれた場所は、ドゥイミヲト連邦国と、長年戦争を続けているリヲダケレージー王国の間に位置していた小国で、ずっと二つの国の争いに巻き込まれていました。

 両親は神に使える職をしていて、神様が御業で戦争から国を守ってくれると信じて、毎日毎日、昼夜問わず、戦争中でも休戦中でもずっと祈っていました。

 しかし父と母の祈りは届くことなく、戦争は日に日に激化していき、私が住んでいた町は科学兵器で毎日まいにち破壊されていったのです。大量にばら撒かれる爆弾。打ち込まれる弾頭。その光景は本当に地獄絵図でした。

 父と母は私の身を案じて、どんな災いをも撥ね退ける加護を纏うという、寺院に伝わる秘術を施してくれました。しかしそれは、命が尽きたら死の原因が消える前にまで、体の時間が巻き戻るという術だったのです。

 その術のせいで私は、町が崩壊して、父や母や、良くしてくれた人たちが亡くなったときも、一人だけ生き返ってしまいました。敵国の軍人が生存者を虐殺して回ったときも、捕虜として捕えられ、見せしめとして牢獄ごと爆破されたときも、私だけ生き返ったのです。

 そうして戦場を一人で彷徨っているときに、この国に保護されました。

それから色んな研究所で色んな実験をされて、最終的には、死んでもどうせ生き返るという理由で、戦場に送り出されるようになりました。

 その後はみんなも知っている通り三度に渡って軍の作戦に加わり、そして、私はそこでも生き返って、今、こうしてここにいます。

 一緒に隊列を組んだ人たちは、同じ学校の十一人は、もう笑うことも泣くこともできないのに、私はいまもまだこうしてここにいるんです。私だけが……」

 話しながらも、これまで死んで行ってしまった人たちの姿が頭を過ぎっていった。

 ここで泣いてはいけない。泣くのは卑怯だ。そう思っているのに、涙が溢れ出してきた。

「私は死んでもどうせ生き返ります。だから、戦場に出たら私が一番前に立ちます。みなさんは援護だけをして、私が死んだら撤退してくださいね」

 その瞬間、私はミーナに強く抱き締められた。なぜかミーナは泣いていた。

「辛かったね! シュリちゃん今まで大変だったんだね」

 ソシリアとロルナレンも近付いてくると、涙ぐみながら私の頭を撫でてくれた。

 私は堪えてきたものが抑え切れなくなって、不覚にも声を上げて泣き出してしまった。

 自分が許されたような、泣いていいんだよって言って貰えたような、そんな気分だった。

 三人は私と一緒に泣いてくれ、私が泣き止むまでずっと抱き締めていてくれた。

「大丈夫よ。そんな心配しなくても、私たちは死んだりしないわ。私たち強いんだから」

 私が泣き止んだのを見計らって、ロルナレンが軽く体を離して私を撫でてくれた。

「そうだよ! 一人で戦わせたりなんてしないし、シュリちゃんも死なせたりしない!」

 ミーナが私を強く抱き締めて、強い口調で言ってくれた。

「またさ、みんなでここに来ようよ。今度はあの夕日をもっと長く見よ?」

 ソシリアが、夕日が沈んだ方向を見て元気に笑った。私も他の二人も釣られるように同じ方向に向いていた。私たちは四人で、もう沈んだ夕日を見つめていた。

「いいわね。それ」

「もちろん」

「そうできたら、うれしいです……」

 ロルナレン、ミーナ、私の順で口々に答え、三人がまた私を抱き締めてくれた。

「絶対にみんなで来ようね!」

 ミーナが私の不安を吹き飛ばすように力強く言った。

「はいっ!」

 その言葉に私は勇気がもらえて、また涙を溢れさせながら、ミーナに負けないくらいに声を張り上げることができた。

月と星だけが、そんな私たちを優しく見守ってくれていた。

そして、その日の夜、私たちに出撃が告げられた。

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