第7話
その日から、エクシードを使いこなすための訓練が始まった。
最初は一つを発動させれば他が使えずに、飛ぶなら飛ぶだけ、走るだけなら走るだけだった。
射撃をするときは動きを止めて標準を定め、それだけに集中しなければ発砲もできなかった。
しかし三人の成長は著しく、三日もすればエクシードを自在に使いこなしていた。
ミーナはアクロバットをするように色んな飛空法で空を飛び回り、ソシリアは様々な銃を使いこなせるよう射撃の訓練し、ロルナレンは私の課題を一緒にこなしている。
それは迎撃型と汎用型は、どんな相手でも臨機応変に対応しなければならないからだ。
三人とも、一年生で選抜されただけあってエクシードにもすぐに適応した。
ミーナは大空を上昇と降下を繰り返しながら大きく旋回し、設置された的を銃撃する。
破砕力はそれほどないから的を粉砕するには至らないが、見事に全弾が命中した。
ソシリアの機体には重量があるため空は飛べない。陸路を走るだけだ。
しかし、陸路を滑走したままでも、ある程度の命中率を保ちながら砲撃ができるようになっている。そのソシリアが大砲と呼んで支障のないエクシードを撃ち放った。
砲撃は僅かに的を逸れたが、その衝撃波だけで木っ端微塵に粉砕した。
「うしっ!」
「あんたのは当たってないでしょう!」
ガッツポーズを取ったソシリアに、ミーナが空中から呆れた声で言い放つ。
しかしソシリアは悪びれたようすもなく『でも的は壊れたもん』と笑って答える。
中間の威力を持つロルナレンと私の銃型エクシードは、的に当たれば破砕することができる。
ロルナレンは射撃の腕もかなりのもので、正確に的を射抜いて端から順に粉砕していく。
六日目になると、実戦を想定した模擬戦を繰り広げるまでになっていた。
ソシリアが連続して撃った砲撃をミーナが掻い潜るように躱し、波動の弾丸で反撃する。
盾を出してソシリアはミーナの放った弾丸を弾くと、今度はガトリングガンを乱射した。
ミーナは大空に舞い上がってソシリアの射程から逃れると、旋回しながら攻撃の機会を伺っている。すると、ソシリアは背中からロケットランチャーを放って爆撃した。
ミーナは旋回して避けようとしたが、逃げ場を奪うように次々と放たれるランチャー砲で撃たれて全身を緑のペイントで染めた。もちろん、模擬戦で実弾は使わない。波動砲でもない。
波動でペイント弾を飛ばして攻撃するのだ。
「負けたぁ……」
全身を緑色に染めたミーナが、不満そうに声を洩らしながら降下してきた。
「だけど凄いですよ、二人とも。まるで実戦を見ているようでした」
興奮が抑えられずに二人に駆け寄る私に、二人は笑顔で親指を立てた。
ロルナレンが白に染まっているのは、二人の前に私と模擬戦をしたからだ。
私たちは一緒に浴場で入浴して、同じ部屋で一緒に眠り、一緒の時間を共有した。
同じ時間を共にすれば心の距離は近付く。同年代の女子ならなおさらだ。
しかし、心が近付くに連れて出撃の日が迫ってくる。私にとっては拷問でしかなかった。
また、繰り返してしまうのではないかという恐怖が、私の胸の中で膨れ上がっていく。
過去の三回も、一緒に出撃をする子たちとはこうして仲良くなれた。
でも、『生きて帰ろうね』と約束しては、みんな死んでしまった。
もう、私だけが取り残されるのは嫌だ。この三人には死なないでもらいたい。
化け物と拒絶されるかも知れないけど、私にはみんなに話さなければならない秘密があった。
入浴を済ませて寝るまでの僅かな自由の時間、私は三人を誘って見晴らしのいい丘に行った。
融けるような夕日が西に沈み、深い紺の空が追い掛けるように空を染めていくのを、私は共に出撃する三人と並んで眺めていた。
「綺麗ね」
「うん。自然の作り出す、絵画でも作り出させない芸術だよね」
ミーナとソシリアが沈んで行く夕日を見つめながら囁いた。もう少しだけゆっくりと沈んでくれればいいのにと思いながら、私も一緒に夕日を見つめていた。
「それで? 私たちをこんなところに連れ出した理由はなんなのかな? 確かに綺麗な景色だけど、これを見せたくてここまできたわけじゃないでしょう?」
夕日が西の山の向こうに沈み、東から追い掛けてきた深い紺碧が空を覆って、光を散りばめたような星々が空で瞬く中で、ロルナレンが切り出した。
どうやら見抜かれていたらしい。出撃までもう日がない。話すなら今を置いて他にない。
「みなさんに話さなければならない話があります」
「うん。それを聞くために、私たちはここにきたのよ」
私が決心して言った言葉に、三人は笑顔で見つめ返して頷いてくれた。
それが私の背中を押してくれた。
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