第4話

 その日の午後、次の戦場が決まった。普段なら、長ければ一ヶ月は滞在が許されるのに、帰ったその日の内に出兵の要請が来るのは、さすがに始めてのことだった。

私は次に編隊するものとの顔合わせのため、講堂に呼ばれていた。

 この学園にとって国から要請を受けるのは名誉なことであり、学生にとって徴兵されるのは自分の能力が認められた誇らしいことだと教育されている。

 そのため、次に戦場に発つものを、英雄として全校生徒の前で称えるのだ。

「本日、ドゥイミヲト連邦国本部より、我校にまた戦力援助の要請がありました」

 理事長の言葉で、生徒である少女たちに緊張が走った。

 当然だ。これは、彼女たちに戦場に行けという通告に他ならない。

 どれだけ学園で洗脳に近い教育を施そうと、戦争に行くのはやはり恐怖でしかない。

「これは大変誇らしいことであり、国民としての義務を果たすことであり、そして国家に恩を返す機会であります。みなさんは選ばれた人間です。そのことを胸に置いて、誇り高く、自分のため、みなさんの家である学園のため、共に育ち高め合った友人のため、そして国家のために、尽力を尽くして職務を全うして頂きたいと思います」

 理事長が口上を述べて檄を飛ばすが、生徒たちは顔を蒼白させて、それでも拍手をしている。

「それではここに、今回選出された英雄たちをみなさんに紹介します。拍手で称えてください」

 悦に浸ったように理事長は声を上げて高らかに言い放つが、それとは対照的に生徒たちは下を向いて体を震わせている。死刑を宣告されるのも同然だ。彼女たちを誰も咎められない。

「一年A組、ロルナレン。同じくミーナ、ソシリア、壇上へ!」

『はい!』

 理事長に名前を呼ばれて、三人の少女が声を合わせて返答をすると壇上へ上がる。

「えっ……」

 大半の生徒が胸を撫で下ろして近くの子と喜びを分かち合う中、私は表情を凍りつかせた。

 それは、さっき三年生の集団から私を庇ってくれた三人の少女だったのだ。

 体の血が急に冷たくなっていくのを感じた。これまでの戦場で無残に命を奪われてきた少女たちの顔が頭の中でフラッシュバックする。

 このままでは、あの三人までもが同じ末路を辿ってしまう。

 私は止めさせたいのに何もできない自分の無力さに唇を噛み締めた。

「そして三度の戦場を経験しながら帰還した、我が校の英雄シュリだ」

 理事長が私の名前を呼んだが、三人のことが気になって返事に遅れた。

「シュリ君はいないのか?」

「は……はい……」

 二度目の呼びかけに私は慌てて答えると、壇上へ向かった。

 三人の少女は、壇上に上がった私を笑顔で迎えてくれる。さっき、中庭であったのは偶然ではなかったのだと、このときになって始めて悟った。徴兵が決まって私を探していたのだ。

 あの場面に出くわしたのは想定外だったのだろうが、助けてくれたのは善意からだろう。

 そんな優しい三人を戦場に送り出すなど、この学園の非道さを身に染みて感じていた。

「よろしく」

 ロルナレンと呼ばれた、黒い髪の少女が私に握手を求めてきた。

 私の心境を悟ってくれたのか、戸惑う私を見て大丈夫だというように穏やかに微笑んでいる。

 この手を取ったら、彼女たちを戦場に引き摺り込んでしまうのではないかと懸念してしまい、手を出したものの握れずにいたら、再び彼女のほうから握り締めてくれた。

 繋いだ私たちの手の上に、被せるようにミーナとソシリアも手を乗せて握ってくる。

 踏ん切りのつかない私の背中を押してくれるように、三人は微笑みかけてくれた。

 それを褒め称えるように、全校生徒と教員たちの拍手が鳴り響いた。


 その後、私たち四人と教員数人を残して全校集会は解散となった。

 私たちは次の出撃の日をその場で告げられた。たったの十日後だった。

 軍隊で大きな作戦があり、そのために増援を要請されたようだ。

 近年では戦闘兵器は実弾ではなく、魂の力をエネルギーに変換するエクシードへと移り変わりつつある。エクシードでの攻撃なら費用が掛からず、実弾よりも威力があるからだ。

しかしエクシードは誰にでも扱えるものではなく、扱うには特別な訓練が必要になる。

 元来の軍人が行ってきた訓練では扱うことはできず、だが、これまで長い年月を積み重ねてきた訓練のメニューを変えられるほど、軍隊は頭が柔らかくはなかった。

それなら、専門的にエクシードを扱う訓練をする機関が必要になる。

それがこの学園であり、男性より女性のほうがエクシードを扱うのに長けているというデーターから、孤児の女の子が集められて幼い頃から訓練を受けているのだ。

そして、軍に要請をされれば、高成績を修めたものから順に選抜されて徴兵される。

今回、選抜されたのがこの三人だった。

この三人には、これから十日間でエクシードを扱う騎士として調整されて出兵が待っている。

分かっているはずなのに、どうして三人とも笑顔でいられるのだろう?

私は三人の心の強さに、尊敬の意を感じずにいられなかった。

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