第2話

 二週間前、私は三度目の出撃でも一人だけ生き返り、登校していた。

「あの子、また一人だけ生き残ったの?」

「これで三回目だよね? あの子だけ生き残ったの」

「一緒に組んだ他の子、全員死んじゃったんでしょう?」

「良く生きて戻ってこれるよね? どういう神経してるんだろう」

 私が登校をしていると、学園の女子がヒソヒソと話している声が聞こえてくる。

 私のことを言っているのだ。彼女たちが言っていることは本当のことだから否定する必要はない。そう、これで三回目。私だけがここに戻ってきたのだ。

 私のことを奇異の目で見るのは彼女たちだけではない。学園中が私を疎んじている。

 それでも逃げるわけには行かない。これは私に与えられた罰なのだ。

 教室に行き、自分の席で授業の準備をしていると、三年生の集団が教室に入ってきた。

 集団は教室の中を見回すと、真っ直ぐに私のところへやってきた。

「シュリっていうのはお前だろう? ちょっと来いよ」

 金髪で背の高い女子生徒が顎を小さく右に揺らして押し殺した声で低く言うと、他の三年生たちが私の両脇を固めて立たせる。そんなことをしなくても逃げなどしないのに……。

 三年生は私を連行するように裏庭まで連れて行き、突き飛ばすように乱暴に私を解放した。

 私は転びそうになったのを踏み止まって三年生を見る。

用件は分かっている。どうして私だけ生き残っているんだ。卑怯者の類の罵倒だ。

この手の呼び出しも慣れている。私はそれをすべて受け止めなければならない。

みんな、特別私が憎いんじゃない。ただ、友達が死んでしまったのが悲しいのだ。

「なんでお前がここにいるんだよ! リスカーもリモーシャも死んじまったのに!」

 三年生が私の制服の襟を握り締めると、頬に平手を打ち付けた。

「ごめんなさい……」

 私だけがここに戻ってきた事実はなにを言っても変わらない。私には謝るしかできなかった。

「ふざけるな!」

 三年生はまた私を殴りながら叫ぶと、他の三年生が私を囲んで殴る蹴るの暴行を始めた。

 みんな友人を亡くして悲しいのだ。だから、その感情を私にぶつけてくる。

 友人と一緒に戦場に出て、一人だけ戻ってきた私をこうして断罪するかのように……。

「あら、三年生が集団で一年生を私刑しているの?」

 その時、一人の少女の声が聞こえて、三年生は暴力を止めて声のほうに視線を向けた。

 背が高くて、黒くて長い髪を三つ編みにし、眼鏡を掛けたスタイルの良い少女が立っていた。

 良くある学級委員スタイルだが、その瞳は挑発的で、口許には嘲笑を浮かべている。

「なにそれ? ひっどい! 年上のくせに恥ずかしくないの?」

 青い髪をボブカットにした、隣にいる黒髪の少女の肩くらいまでしかない小柄な少女が、三年生を睨みつけると怒りを露にして声を張り上げた。

「ああ、あれじゃない? 自分の仲間が死んだのにお前が生きてるのは可笑しいとか言って、生存者に理不尽な八つ当たりしてるヤツ? そんなに大切なら一緒に出撃すればよかったのにねぇ? ああ、そっかそっか、実力がなくて選ばれもしなかったのか……」

 二人の中間くらいの背丈の少女が、三年生を嘲笑してバカにしたように言う。

 茶色のクセのある髪をツインテールにした、気の強そうな瞳をした少女だ。

「なんだよお前らは! 一年が! 生意気言ってないで向こう行ってろ!」

 三人とも修道女のシスター服を模した制服で、リボンの色で私と同級生の一年生だと分かる。

 今は三年が青で、二年が黄色で、一年が赤だ。そして来年になれば今度は一年が青をつける。

 庇ってくれたのはありがたいけれど、一年生が三年生に逆らうのなんて無謀だ。

 カリュキュラムの一貫として、生徒に戦闘術を教えているこの学園では特に力の差が大きい。

 強くは出ているけど、三年生が実力行使に出たら一溜まりもないだろう。

「リスカーは……、最後まで……勇敢に、敵軍に銃を……」

 経験上、故人の友人は私の口からその名が出るのが一番許せないようだ。三年生の意識を三人から私に戻すために、私は敢えてその名を口にした。

「お前がリスカーの名を呼ぶんじゃねぇ! そのリスカーを見殺しにしたんだろうが!」

 私の狙い通りに三年生は声を張り上げると、私に注意を戻して頬を殴った。

「ちょっと、止めなさいよ!」

 眼鏡を掛けた少女が声を荒らげて三年生に詰め寄る。

「うるせぇ! 引っ込んでろ!」

 三年生が銃型のエクシードを取り出して三つ編みの少女に向けたが、すぐに弾き飛ばされた。

 ツインテールの少女が、三年生が銃型エクシードを取り出した瞬間に、三年生が構えるよりも早く、銃撃して弾き飛ばしたのだ。

 誰の中にも宿る魂の力、波動。その波動の力をエネルギーとして活用できる武具、それがエクシードであり、その扱い方を生徒に教育する機関がこの学園だ。

 この学園は戦災孤児を引き取り、幼少の頃から教育という名の訓練を施して、一人前の戦士に育てあげて戦場に送り出している。

 制服が修道女を模しているのは、国を神として崇めるように洗脳するためだ。

 そのため、波動を自在に扱えるようになればなっただけ、エクシードの扱い方も向上して行く。やはり長い年月を学習に費やしたもののほうが、高い技術を身につけることができる。

 それを踏まえるとツインテールの少女の早撃ちは、驚異的だった。

「すぐに暴力に訴えるのはこの学校の生徒の悪いクセだよね? だけど、相手の力量をちゃんと測らないと返り討ちにあっちゃうよ?」

 ツインテールの少女は、硝煙も出てないのにエクシードの銃身に息を吹きかけて笑った。

「お前ら! この人数差で相手になると思っているのか?」

 三年生が声を荒らげると、全員がエクシードを取り出して戦闘体制を取った。

 私のときに使わなかったのは、私が抵抗をしないのが分かっていたからだろう。

「無抵抗な相手に寄って集って暴力を振るう人なんて、何人いても負ける気がしないわよ!」

 一番背の小さい青い髪の少女が声を張り上げてエクシードを取り出した。

「こっちだって無抵抗な人間を殴ったって憂さ晴らしにもならないんだ! やっちまえ!」

 三年生が声を張り上げて、集団で一年生三人に襲いかかった。一年生三人はエクシードを取り出すと、不敵に笑って待ち構えた。

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