ありがちな高校生のありがちな転生とありがちな結末

ナナオイ

一話完結

 俺の名前は圭。17歳、元高校生だ。どういうことかというとちょっと前俺は事故にあって異世界に転生してしまっていた。眠っていたような感覚から起き上がると周りは森。あまりのことに驚いたが、不思議と悲壮感は無かった。そりゃ死ぬ寸前は家族の顔が走馬灯で流れたりしたが、どうやら俺は内心あのありふれた普通の生活に飽き飽きしていたらしい。昔の生活を惜しむ余裕もなくただこれからの生活に想いを馳せている自分に少し失望した。さあ異世界生活の始まりだ。しかし、周りは見渡せば見渡すほど木だらけだ。普通こういうのは街の近くなんかに現れるものではないのか。そんなことを考えながら歩いていると人工物らしきものを見つけた。戦車だ。苔だらけでもう動かないということが一目見てわかる程風化している。それにしても戦車とは。これはまた近代的な異世界に来たものだ。俺は戦車を漁り、中に何も無いことを確認するとその場を去った。さらに歩くと街を見つけた。廃墟だった。それも人が去って廃墟になったという感じでは無く、何か爆発物が落ちて壁や防空壕だけが残ったような見た目だ。俺はそばにあった紙切れを見た。地図らしきそれは破けたり文字が擦れているせいで殆ど読めなかったが見慣れた文字であった。

『日本』

その瞬間俺の額に嫌な汗が流れる。知りたく無いと思いながらも知らなければならない。いや、最早よく知っている。頭が混乱して体の力が抜け、立ち上がることができなかった。しかし腕は這いながら体を前に進ませた。戦車を通り過ぎ見えてきたのは俺がこの世界で初めて見た景色。いや、事故による昏睡から目覚めて初めて見た景色。俺は立ち上がり周りを見渡した。変わらないどれだけ見渡しても木しかない。そして足元には成人男性も入れそうな大きな箱が一つ。そこにも先ほどの地図のものとはまた別の文字と見慣れた名前が。

『コールドスリープ装置---平山圭』

その箱の蓋は空いていて中身は丁度箱の元に戻ってきたみたいだ。気づかなかった。いや、気づこうとしなかったのか。息が荒い。こんなことなら戻ってこなければよかった。受け止めたくない現実を忘れたいと感じた。そこで思いついた。もう一度眠ればいいんだ。忘れていた。あの箱には俺は再び箱は電気使用量をなるべく減らすために比較的新しい記憶を消す機能がついているのだ。そのせいでここを異世界と勘違いしていた。蓋を閉め冷却ボタンを押した。ボタンを押すとさっきまでの混濁した感覚が嘘のように消えてゆき代わりに眠気が襲ってきた。眠りにつきながら俺は何故事故で眠っていたはずなのにこの装置の機能知っていたのだろうか。そしてこんなことを考えたのは何回目だろうか、と疑問に思う。しかしその答えを出す前に俺は眠ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ありがちな高校生のありがちな転生とありがちな結末 ナナオイ @inananao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る