第55話 天音の目覚めを信じる・・・・・・
体外受精で二人の新しい命を誕生させた直後、天音は意識不明になってしまった。
天音に無理をさせなければ、元気な姿を見せていた可能性は十分にある。こんなことになるのなら、無茶な要求をしなければよかった。新しい命を得ても、まったく喜べなかった。
フルタイムの仕事につきながら、二人の新しい命を育てるのは難しい。天音の誕生させた命は、彼女の実家で受け持つこととなった。清彦は育児に参加する機会は、ほとんどないと思われる。
清彦は二つの瞳から、大粒の涙を流す。
「あ・・・・ま・・・ね・・・・・・」
妻の名前を呼んだとしても、言葉は帰ってくるはずもなかった。彼女は二度と言葉を発することはないかもしれない。
心に塩を塗るかのように、玄関のベルが鳴らされた。
「ピンポン、ピンポン・・・・・・」
応対したい気分ではなかったけど、玄関に向かうことにした。
扉を開けると、思いがけない人物が立っていた。
「清彦さん、こんにちは・・・・・・」
「蛍さん、どうしてここがわかったの?」
「天音さんの出産前に、住所を聞いたんです」
聖の妹と会って、ストーカー体質を受け継いでいる。こちらについても、警戒したほうがよさそうだ。
「蛍さん、天音さんはどういう関係なんですか?」
「天音さんの出産した病院で、看護師として仕事をしていました。そのこともあって、親しくなったんです」
清彦は無意識のうちに、蛍の両肩をつかんでしまっていた。
「天音は出産前から、危険な状態だったんですか?」
蛍は返事をしなかった。病院は危険性を認知しながら、出産を容認したことになる。
「天音が危険だとわかっていたなら、どうして止めてくれなかったんですか?」
「私たちは危険であることを察し、ストップをかけ続けました。それでも、彼女は絶対に出産するといったんです。本当に好きな人のために、子供を見せてあげたかったようです」
蛍は現在の状態を教えてくれた。
「天音さん懸命に治療すれば、助かる可能性もあります。清彦さんは彼女のために、一生懸命に頑張ることだけを考えましょう」
清彦は二~三度頷いた。
「そうだな。天音は絶対に生きて帰ってくる」
僕は僕なりに一生懸命に努力していく。天音、絶対に生きて帰ってきてくれよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます