第53話 天音と顔合わせ

 ストレス解消のために、酒屋にやってきた。


 酒屋を利用していたのは、ほとんどが男だった。女はこういう場所にやってくるのは珍しいのかなと思った。


 ビールを飲んでいると、思いもよらない人物と顔を合わせる。清彦は気まずくなって、視線をそらした。


「清彦さん、隣に座ってもいい?」


 天音の問いかけに、力のない声で応じる。


「う、うん・・・・・・・」


 数カ月ぶりにあった元妻は、頬は痩せこけ、髪の毛は白くなっていた。加齢を数十倍、数百倍にスピードアップさせたかのようだ。


「マスター、焼き鳥を3本ちょうだい」


「あいよ」


 清彦は焼酎を飲む。元妻といるからか、何の味も感じなかった。


 天音は小さな欠伸をしたあと、思いもよらないことを口にする。


「もう一度だけやり直してみようよ・・・・・・」


 清彦は驚きのあまり、目を見開いてしまった。


「僕はひどいことをいった。君を最低の言葉で傷つけた。それでもいいのか・・・・・・」


「うん。二人ならきっとやり直せる。私はそう信じているから」


 聖人君子、頭の中で四文字が浮かぶ。


 天音のところに、三本の焼き鳥が運ばれた。


「清彦、一本食べていいよ」


「天音が全部食べるべきだ。ちょっとでも食べないと、体は良くならないぞ」


「そうだね・・・・・・」


 天音は空腹なのか、三本の焼き鳥をあっという間に食べきった。


「マスター、焼きめしを2つ」


「あいよ。すぐに準備する」


 マスターがいなくなったあと、天音は優しく手を握ってきた。あんなひどいことをいったのに・・・・・・。


「天音さん・・・・・・」


「今日は家に立ち寄ってもいい?」


 美羽に毒を盛られた映像が、強烈にフラッシュバックする。


「そこまでは・・・・・・」


 天音は心の中をしっかりと読み取っていた。


「毒を盛られたことは、記憶から消せないんだね」


「うん・・・・・・」


 天音の手を握る力は、少しだけ強くなった。


「私も前を向くから、清彦さんも前だけを向いて生きよう」


「・・・・・・・」


「一度はうまくいかなかったけど、二度目は絶対にうまくいく。この気持ちを忘れてはいけないよ」


 天音のテーブルに、2人分の焼きめしが運ばれてきた。


「私はたくさん食べるね。最近はいろいろなことがあって、まともに食べられていなかったから」


 天音は猛スピードで焼きめしを食べる。豪快な食べっぷりは、何かと決別しようとしているように映った。


「天音、何かあったのか」


「彼氏を作ろうとしたけど、子供を産めない女はいらないといわれた。大きなショックを受けたのか、食事はまともに喉を通らなかった」


 食事を食べていないとしても、ここまで劣化するのはありえない。彼女は大きな病気を抱えているのかなと思った。

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