第51話 天音とぎくしゃく

 天音は助かったものの、子供を産めない事実は家庭内に暗い影を落とした。


 清彦は子供を産めない女性に、つらく当たることが増えていた。やってはいけないとわかっていても、ストップをかけることはできなかった。


「天音、預金はどこにやったんだ?」


「ストレス解消のために、ちょっとだけ使ったよ」


「10万円はちょっとじゃないだろ。金銭感覚はどうなっているんだ」


 一カ月当たりの手取りは、16万円程度。60パーセント以上のお金を失ったことになる。


「夫婦のお金なんだから、どう使ってもいいでしょう」


 天音は妊娠できないとわかってから、お金遣いは別人みたいに荒くなった。この状況を続ければ、いずれかは破産する。清彦としては、すぐに辞めさせる必要がある。


「将来設計をきっちりとしようといったのはおまえだ。その話があったから、買いたいものを我慢してしたんだ。自分勝手にもほどがある」


「子供を産めないんだから、生活費は浮くでしょう。私が使って何が悪いの?」


「お金を使うっていっても、10万は使いすぎ。こんなことを続けていたら、自己破産することになるぞ」


「お金は余っているでしょう。借金はしていないんだから、問題はないはずだよ」


 子供を産めないという一つの事実だけで、夫婦間はこじれてしまった。小さなことを積み重ねていっても、大きな出来事にはかなわないようだ。


「二人で地獄に落ちる前に、離婚に応じてほしい」


 天音は大粒の涙を流した。


「清彦、冷たすぎるよ。子供を出産できなくても、楽しい家庭生活を送ることはできるはずだよ」


「子供は生活のために必要だと思っている。ここについては、譲ることはできないから」


「女性を子供を産む道具たと思っているの?」


「そんなことはないけど、新しい命は絶対に欲しい」


 天音は大きな溜息をついた。


「あなたがそんな人だとは思わなかった。あんたなんて、こっちから願い下げだよ」


 二人はその日のうちに離婚する。天音は婚姻関係を解消するとすぐに、家からいなくなった。

 



  




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