第49話 二度も命を助けられた(聖編)
聖は目を覚ますと、白いシーツの上に横たわっていた。清彦は私の願いをきっちりと聞いてくれた。
同じ男に二度も命を助けられた。彼がいなければ、私の人生は成立していなかったことになる。
「おねえちゃん、状態はどんな感じ?」
蛍の質問に、短い言葉で答える。
「まずまずといったところだよ」
つわりによる痛みは軽減されていた。先ほどの痛みは、一時的なものだったのかもしれない。
清彦と会ったことによって、おなかの赤ん坊に対する愛着を失った。聖は心の中である決心をする。
「新しい命については、流産することにするよ」
「私はそれでいいと思う。新しい命を誕生させるときは、精子は誰なのかわかっていたほうがいいよ」
「そうだね・・・・・・」
蛍の妊娠を聞いて、取り残されているように感じた。どんな手段を使っても、新しい命を誕生させたいと願うようになった。
「清彦さんによって、二度も命を救われた。おねえちゃんの人生は、清彦さんなしでは語れないね」
「そうだよ。あの人がいたからこそ、五体満足で生活できている」
「そんなに好きなのであれば、破局しなければよかったんだよ。交際にピリオドを打ったのはどうしてなの?」
「本気で好きになりすぎたことで、求めるレベルをあげすぎたんだろうね。すべてを思い通りにしたいという、ありえない思考にいきついていた」
聖の病室に父がやってきた。急いでかけつけたのか、額の汗はびしょびしょで、ネクタイはおおいに曲がっていた。
「聖、容態はどうだ?」
「まあまあといったところだよ」
「お医者さんの話によると、精子に異常が見つかったらしい。新しい命を誕生させても、80パーセントくらいは一週間で死ぬといっていた」
どんなに苦労を重ねても、一週間であの世おくりとなる。すぐに旅立つくらいなら、出産させないほうがよい。
「私は流産するよ」
父は小刻みに頷いた。
「おとうさんとしては、日本にいる誰かと子供を授かってほしい。一人で育てるよりも、二人で育てたほうが負担を軽減できる」
「そうだね」
子供を育てるのは義務ではない。聖の子供を産まない、という選択にしようかなと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます