第48話 結婚の報告
桜のお墓に一人でやってきた。
「天音さんと結婚しました。いろいろと大変ですけど、幸せな日々を過ごせています」
一礼をする前に、よく知っている人物と顔を合わせることとなった。
「聖さん、どうしてここに?」
「桜さんにはいろいろとお世話になったからね。数カ月に一度くらいの割合で、お墓参りにやってきているんだ。家族とは鉢合わせしないように、細心の注意を払っているよ」
聖は赤い花を供えたあと、お墓に向かって手を合わせる。清彦も習うように、二つの手を重ねた。
「清彦君は、桜さんのことが好きだったんじゃないの?」
清彦ははい、いいえのどちらの反応も示さなかった。
「それについてはよくわからない。いろいろとありすぎて、誰かを好きになりたいという気持ちではなかったから」
秋絵、美羽のできごとによって、女性に対する恐怖心が芽生えていた。誰かを好きになるという思いを封印せざるを得なかった。
聖はおなかを押さえる。
「イタタタタタ・・・・・・」
「聖さん、どうしたの?」
「つわりの痛みだと思う。二週間前に検査したら、新しい命を妊娠しているといわれたの」
一人の男だけを愛するといっていた女性が、別の男との間に命を授かる。人間の発する言葉は、でたらめが多いなと痛感させられた。
「聖さんは誰かと結婚したんだね」
聖は首を横に振った。
「海外の精子バンクから精子を購入して、新しい命を授かった。子供を産むためとはいっても、誰かに体を触られるのは嫌だったから」
旦那の精子ではなく、購入した精子で赤ちゃんを誕生させる。結婚したくない女性の間では、それなりに用いられる手法である。
「命を助けてもらった恩人だけを愛する。私の人生で、絶対に守りぬくと決めているから」
「聖さん・・・・・・」
話を続けると、心に隙が生じかねない。早々に話を切り上げたほうがよさそうだ。
「清彦さん、救急車を呼んでくだ・・・・・・」
聖は意識を失った。緊急事態であることを察し、すぐに救急車を呼んだ。
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