第44話 天音と交際開始

 温泉の露天風呂につかっていると、思わぬ人物と顔を合わせる。


「清彦さん、隣に座ってもいいですか」


 天音は露出多めの水着を着用。第一直感は誰かに見せつけるためなのかなと思った。


「天音さん、どうしてここに・・・・・・?」


「たまたまですよ。それ以上、それ以下のどちらでもありません」


 秋絵のできごとがあったからか、盗聴器の存在を疑った。


「自宅に盗聴器などを仕掛けていないよね?」


 天音は眉間に皺を寄せる。


「そんなことはしていません。温泉にやってきたのは、偶然でしかありません」


 天音はお湯につかった。どういうわけか、体を密着させてくる。痴漢扱いされるのではないかと思った男は、無意識のうちに距離を取ってしまった。


「天音さん、近いですよ」


 天音は大きな溜息をついたあと、髪を軽くくくっていた。


「清彦さん、距離を詰めてもいいですか?」


 清彦が返事をする前に、天音は太腿を密着させてくる。


「最低限のマナーとして、二人の女性を同時に好きになるのはやめましょう。一人だ

けに意識を剥けないと、すぐにそっぽ向かれますからね」


 桜はどれくらいの話をしたのか。清彦は大いなる不安をおぼえた。


 清彦のいるところに、明日香が戻ってきた。トイレに行くために、一時的に温泉から離れていた。


「おにいちゃん、この女性は誰なの?」


「桜さんの双子の妹だよ」


 明日香はていねいに頭を下げる。


「私は明日香といいます。おにいちゃんの付き添いとして、こちらにやってきました」


 万が一の事態に備えて、ついてきてもらった。不幸続きであるため、どんなことがおきても不思議はなかった。


「桜の妹で、天音といいます。よろしくお願いします」」


 明日香は隣に腰掛ける。あまりにきつきつだったからか、天音のほうに体が傾いてしまった。


 バランスを取ろうとするときに、天音の太腿をがっちりとつかんでしまう。頭については、胸にのめり込む格好となった。


 清彦は人生の終わりを覚悟した。セクハラはどんなことがあっても、許してもらうのは不可能だ。


 天音は大きな溜息をついた。


「声掛けもせずに、女性の体に触るのは関心しないですね。胸に頭をつけるなんて、言語道断の行為です」 


 明日香は事の重大さを察したのか、地面に頭をつけて土下座していた。


「本当にすみませんでした。どうかお許しください」


 天音は小さく息を吐いた。


「太腿をくっつけた時点で、女の思いは一つしかないでしょう。私は異性として、清彦さんのことが好きです」


「天音さん・・・・・・」


「清彦さんは気づいていないみたいでしたけど、姉と入れ替わっていたこともあるんです。一目見た瞬間にこの人と付き合いたいと思うようになりました」


「入れ替わった?」


「はい。姉が入院していたときに、代理としてやってきたんです。清彦さんはまったく気づいていませんでしたけど・・・・・・・」


 容姿、声のどちらもそっくり。入れ替わっていたとしても、気づくのは非常に難しい。


「おねえちゃんが生きている間については、心に秘めた気持ちを伝えないようにしていました」


「そうなんだ・・・・・・」


「太腿を触った、胸にダイビングしたからには、私のお願いを叶えてくださいね」


「どんなお願いですか?」


 清彦は腕をつかまれたのち、天音の胸の上に置かれた。


「私と交際してください。一度でいいから、お付き合いしてみたいです」


 一度目は二股、二度目は短期間破局。そんな自分が恋愛をしてもうまくいくのか。


 明日香は迷っている、兄の背中を強烈に後押しする。


「おにいちゃん、レッツゴー、レッツゴー」


 妹の後押しもあり、交際することが決まった。三度目の交際は、うまくいくといいな。

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