第41話 桜の病気

 清彦は彼女を作らないまま、学校生活を終了した。ストーカーされたこと、命を狙われたことによって、恋愛におっくうになってしまった。


 桜に会うために、近くの公園にやってきた。彼女とはそれなりに親しくしていたけど、恋仲に発展することはなかった。


「清彦さん、二人きりで写真を撮りましょう」


「桜さん、そうしよう」


 清彦、桜はツーショット写真を撮る。異性とこんなふうにしたのは、初めての経験である。交際していたときですら、ツーショット写真を撮ったことはなかった。


 桜はスマホに収めた、二人の写真を見つめていた。


「まずまずといったところだね。もうちょっと笑ってくれると嬉しいけど・・・・・・」


「桜さんも全然笑っていないよ」


「そうだね。頬の筋肉はガチコチに固まっているね」


「桜さんはほとんど、笑顔を見せてくれなかった。心に壁を作っているように感じた」


 桜は息を吐いたあと、満面の笑みを作る。


「これでいい?」


 笑顔からは光を放たれているかのようで、一瞬にして心を奪われそうになった。美羽と比べて、数段階上の世界にいる。


「私の笑顔はどうだった?」


「あまりにすごすぎて、言葉を失ってしまった」


「そういってもらえたのなら、すごくよかったよ」


 桜はどういうわけか、体の力が抜けてしまった。


「桜さん、どうかしたの?」


「私の寿命はここまでみたいだね。あとちょっとで、お迎えを受けることになる」


 清彦は意味を理解できず、顎をあんぐりとしてしまった。


「数カ月前に検査をしたら、末期がんが見つかったの。お医者さん曰く、あと数カ月しかもたないといっていた」


「そ、そんな・・・・・・」


 桜は弱々しい力で、体を寄せてきた。


「私の最後のわがままをかなえてほしい」


 体の柔らかさについては、妹とほとんど同じだった。そのような女性が、あとちょっとで死ぬなんて信じられなかった。


「清彦さんのことが大好きです。心の底から愛しています」


 余命数カ月の女性からの、思いもよらない告白。頭の中でどのようにしていいのか、わからなくなってしまった。


 桜は大きな咳をすると、赤いものを大量に吐き出す。血だとすぐに判断した男は、救急車を呼んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る