第38話 明日香によって救出された

「おにいちゃん、おにいちゃん・・・・・・」


 訊き覚えのある声を聞いて、ゆっくりと目を覚ます。おにぎりを食べてから、数時間は立っていたと思われる。


「あ・・・・・す・・・・・・か・・・・・・・」


 明日香は倒れ込んでいる兄を前に、たっぷりの涙を流していた。


「おにいちゃん、何があったの?」


 おにぎりに入っていた異物の影響か、口を開くことはできなかった。


「すぐに救急車を呼ぶね」


「あ・・・・・あり・・・・が・・・・・・」


 清彦のところに、もう一人の人間がかけつけてきた。


「山本君、どうしたの?」


「ひ・・・・・」


「なんでこんなことに・・・・・・」


 美羽と結託して、毒をもった可能性もある。聖についてはまったく信用できなかった。


 清彦の倒れているところに、救急車らしき音が近づいてきた。


「おにいちゃん、もうちょっとの辛抱だからね」


 明日香はかけつけてきた、女を強烈ににらみつけた。


「おにいちゃんを苦しめたのは、あなたでしょう。救急隊員がやってきたら、毒を盛ったことを話します」


「私は何もしていない・・・・・・」


「桜さんという女性から、いろいろと話しを聞いています。おにいちゃんに対して、殺意を持っていたみたいですね」


 桜と明日香に接点があった。そのことに対して、大きな驚きを隠せなかった。


「そうだとしても、こんなことはやっていない・・・・・・」


「おにいちゃんにとどめを刺すために、ここにやってきたんでしょう」


 明日香はスマホを取り出す。


「警察にはすでに通報してあります。事件性が高いとして、捜査をしてくれるといっていました」


「私は何もやってない・・・・・・」


「私にではなく、警察に対していってくださいね」


「・・・・・・・」


 救急車の中から、救急隊員と思われる人間がやってきた。


「お体はだいじょうぶですか? 歩くことはできそうですか?」


「な・・・・なん・・・・・」


 清彦は立ち上がろうとするも、体を起こすことはできなかった。救急隊員は危険なのを感じたのか、荒げた声で救援を呼んでいた。


「担架だ、担架を持ってこい」


 清彦は担架に乗せられたあと、救急車で病院に運ばれていく。明日香は心配らしく、おにいちゃん、おにいちゃんと何度も叫んでいた。

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