第35話 破局から半年経過

 聖と破局してから、半年が経過した。


 新しい彼女はできていなかった。ガールフレンドと呼べる女性もいなかった。二人の女性を同時に好きになった事実は、大きな足枷となってしまったようだ。


 時折寂しさがこみあげてくるものの、平穏な日々を過ごせることに満足していた。秋絵のようなモンスターに追いかけられるのは、今後は絶対に避けたい。今回は助かったけど、最悪の場合は命を落としていた可能性すらある。


 美羽、聖と話すこともほとんどなくなっていた。半年間のうちに、人間関係はこんなにも変化してしまうのかなと思った。寂しさを感じつつも、ゆったりできていいなとも思った。


 女性と話をしなくなってから。男と話す機会はちょっとだけ増えた。本来はこうあるべきなのだが、そうしていなかった。女性と積極的に話すことに慣れてしまっていたのかもしれない。


 メガネをかけた女性がやってきた。彼女と会話するのは、おおよそ一〇日ぶりである。


「山本君、お話をしましょう」


「うん。わかった」


 桜と話をする場所は決まっている。意思疎通をしていないのに、どういうわけか同じ場所になっている。


 桜はそっと手を差し出してきた。清彦は数秒悩んだのち、彼女の手を軽く握った。


 二つの手を重ねた直後、聖がこちらにやってきた。鼻息は非常に荒く、イライラしているのを感じ取った。


「桜、いつの間に仲良くなったの?」


 Gカップはさらに成長し、Hカップへと進化していた。強風が吹けば、バランスを崩しそうな胸の大きさだ。


「聖が他の男性と交際しているときだよ。少しずつ、少しずつ、話をしていたんだ」


 桜はゆっくりかつ無理のないペースで、関係を構築していった。


「私の気持ちを知って、見せつけようとしているの?」


「聖は他の男性と交際をスタートさせた。そのときにどんなことをしても、私の自由でしょう」


 フリーとフリーなので、距離を詰めることは許される。


 桜は冷たい言葉を発する。


「破局した直後に、目を疑うような内容を書いていたよね。あんなことを記入したくせに、まだ交際したいといえるの?」


 桜はスマホを取り出すと、衝撃の内容を見せてきた。そこには正気を疑うような、ひどい文字が羅列されていた。これを見た直後、聖に対する強烈な嫌悪感に苛まれた。


「独りよがりな部分については、転校した女性と同じだよ。聖の愛情は、非常に危ない方向に向かっているイメージを受ける」


 こんなことになるのなら、命を救わなければよかった。他人を助けてしまったことで、大きな災難に見舞われることとなった。


「命の恩人に対して、恩を一生かけて返したいの。それを叶えるために、二人で歩んでいきたい」


 桜は下唇をなめる。


「独りよがりな思いを、相手に押し付けていいの? 一人の気持ちだけで恋愛をできると思っているの?」


 聖は返答に窮する。


「美羽さんはすごく丁寧に、清彦さんと向き合おうとしていた。距離感は近いと思ったけど、それ以上に大切にしようとする思いが強い」


 美羽のやり方には、一つ一つの確認があった。自分は何もできないといっていたけど、相手の意思を尊重するという長所を持っている。


 聖のやり方は、一直線に進んでいた。自分がこうしたいと思ったら、ストップをかけていなかった。


「恩返しをするためには、ちょっとくらいは強引にならないと・・・・・・」


「山本君は恩返しを求めていないよ。聖を助けたいという純粋な思いで、命を救ったんだと思う」


 一人の女の子の命を救いたい、その感情だけで体を動かしていた。感謝されたい、感謝してほしいとは思っていなかった。


「山本君と話をしたいの。二人の邪魔はしないで」


 聖は何もいえなくなったのか、二人のところからいなくなった。

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