第33話 桜はなかなか笑わない

 桜は話をする前に、眼鏡をかけた。


「清彦さん、二人の話を聞いてどう思った?」


「心はほとんど動かなかった。以前に感じていたときめきは皆無だった」


「清彦さんは、二人から脱却できたみたいだね」


「桜さんが話をしてくれたおかげだよ。本当にありがとう」


 桜は眼鏡をはずした。


「お役に立てたのならよかった」


 話をするようになってから、笑う場面はほとんど見ていない。相談相手になっているのに、心を閉ざしてしまっている。


「桜さんはどうして笑わないの?」


 桜は小さな息を吐いた。


「どうしてなのかは、推理してみるといいよ。答えを導き出せたら、私のところにおいで」


 僕がつまらない人間だから。僕と一緒にいても楽しくないから。頭の中に浮かんでくるのは、ネガティブな発想ばかりだった。


「清彦さん、ネガティブなことばかりを考えているでしょう。こちらの勝手な事情であって、清彦さんは悪いことはしていないから」


「そうなの・・・・・・」


 桜は小さく頷いた。


「清彦さんは、美羽さん、聖のどちらかと交際するつもりはあるの?」


「あるかもしれないけど、確率はかなり低いと思う」


 高く見積もっても10パーセントには届かない。交際するとなれば、他の女性を選ぶと思われる。


「恋愛はいろいろなことがある。一度くらいの失敗は気にしなくてもいいよ」


「桜さんもいい人を見つけられるといいですね」


「・・・・・・・」


 スマホで時間を確認。買い物を済ませる必要があるため、これ以上の話をするのは難しい。


「桜さん、用事があるから・・・・・・」


「わかった。またね・・・・・・」


 桜はぎこちない仕草で、手を振っていた。僕はつまらないから、一緒にいるだけで体を固めてしまうのかな。そうだとすれば、彼女と距離を取ったほうがよさそうだ。

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