第32話 美羽と聖の破局

 聖、美羽の交際スタートから、二カ月間以上が経過していた。


 二人に対する思いは、強いものではなくなっていた。一時的に芽生えた恋だったこともあり、消えていくのも早かった。二人のことを愛していたようで、まったく愛していなかったのかもしれない。冷静になれる時間を確保できたことで、そのことに気づくことができた。


 桜の適切なアドバイスも、有効に働く。清彦にやりやすいプランを考えてくれたおかげで、無理のないペースで恋心を忘れることができた。自分だけでやっていたら、未練を断ち切るのは難しかった。


 ストーカー女はまったく近づいてこなくなった。清彦の耳に入った情報によると、父の厳しい監視下に置かれているとのこと。学校、自宅以外の行き来を完全に禁止されているという噂まで流れている。奴隷生活を送るくらいなら、刑務所生活のほうがマシである。監獄であっても、最低限の人権を保障されている。


 聖、美羽のことを考えなくなってからは、桜と話す機会が増えていた。一週間に一~二回程度の割合で、趣味や食べ物の好みなどを話す。


 桜の一つ目の趣味は人形作り。高校生にしては、幼稚な印象を受ける。


 桜の二つ目の趣味は音楽鑑賞。ジャニーズの音楽を中心に聞くといっていた。男性グループが好みで、女性の音楽はほとんど聞くことはないようだ。


 桜の三つ目の趣味は○○鑑賞。女子高生の趣味としては、大胆不敵な印象を受けた。これを気に入る女子高生は、1000人に1人もいないと思っていた。


 桜の大好きな食べ物はちくわ、はんぺん、かまぼこといった練り物系。独特の食感をこよなく愛している。


 嫌いな食べ物は乳製品全般。高校に入ってからは一度も、食べていないといっていた。ヨーグルト、アイスなどを嫌うのは珍しいと思った。彼女曰く、何かの機会に食べたいといっていた。


 帰宅の準備をしていると、おっぱいの大きい女性がやってくる。以前は感じていたときめきは、どこかに消え去ってしまっていた。


「山本君、ちょっとだけ話をしたい」


 Gカップを前にしても、興奮することもなかった。ただの飾りにしか思えなかった。


「宮川さんには交際している男性がいる。そちらを大切にすればいいと思う」


「彼氏とはすでに破局したよ。自分のことを見ていない人はいらないっていわれたの」


 清彦とも一カ月で破局し、新しい男性とも二カ月で別れる。聖という女性は、恋愛に向いていないのかもしれない。


「あんな別れ方をしたけど、私にはあなたしかいないの。命を救ってくれた恩人意外とは、手をつなぐことすら難しいみたい」


 他の異性と交際した時点で、言葉の力はおおいにうすれる。聖は適当なことをいっているようにしか思えなかった。


「一人だけの異性を好きになれるよう、心を完全にリセットしているところだから。それを誰にするのかは、これから決めるつもり」


 聖、美羽のどちらかと交際するよりも、新しい関係を作ったほうがいい。二人のどちらかとパートナーになっても、二人を好きになった事実でこじれる展開に向かいやすい。すっきりとしているほうが、恋はうまくいくような気がする。


 清彦のいるところに、美羽がやってきた。


「山本君、久しぶりだね」


「船橋さん、こんにちは」


 美羽は小さな声で、簡単に事実を告げた。


「私は三日前に破局したよ。現在はフリーの状態だよ」


 聖、美羽はほぼ同じ時期に破局。お互いに最初から、決めていたかのようにすら感じられた。


「二人にはいろいろと迷惑をかけた。僕としては、新しい恋を探すつもりでいる」


 聖、美羽の表情はおおいに曇った。


「え・・・・・・」


「私はもう一度・・・・・・」


 清彦は二人の言葉を遮った。


「ベストな選択肢とはいえないけど、ベターだとは思っている。60~70点くらいの恋愛を目指して、これからやっていこうと思っている」


  100点を目指すのは不可能であると、美織からなども聞かされた。そのことについては、当てはまっていると思う。


 清彦のいるところに、桜が近づいてきた。本日はメガネバージョンだった。


「清彦さん、二人で話したいけど・・・・・・」


 清彦は美羽、聖に目配せをする。彼女たちは不本意ながらも、首をかすかに縦に振った。

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