第27話 タイミングの悪さ

 約束の場所に向かっていると、倒れている女性を発見した。放置するわけにはいかず、すぐに駆け付ける。


「大丈夫ですか? 救急車を呼びましょうか?」


 女性は顔をあげる。清彦のよく知っている人物だったので、驚きを隠せなかった。


「船橋さん・・・・・・」


 清彦は手を差し出すと、美羽は力いっぱい握った。私を助けて、私を救ってといわんばかりである。


「山本君、ありがとう」


 美羽はどういうわけか、体を合わせてきた。


「ちょっとだけでいいから、一度だけでいいから・・・・・・」


 聖のことを考えると、すぐに離したほうがいい。こんな場面を見られたら、二人の関係は完全にリセットされる。


 美羽と抱擁しているところに、聖がやってきた。タイミングのあまりの悪さに、呪われているのかなと思った。


 聖は当然のことながら、大きな罵声を飛ばしてきた。


「清彦の大馬鹿野郎。他の女と抱きつくなんて最低。カス、クズ、下衆の極み」


 普段は温厚な女性が、下品な言葉を連打。彼女の怒りは頂点に達している。


「あの、これは・・・・・・」


 美羽は弱々しい表情を、聖の方に向けた。


「私が倒れていたから、彼は助けてくれただけだよ。それ以上、それ以下のどちらでもないから」


 聖は抱擁している女性を知って、目をきょとんとさせた。


「美羽さん、どうしたの?」


「一カ月前くらいから、ご飯が喉を通らないの。食べようとはしているんだけど、吐き出すことも多くて・・・・・・」


 聖の二つの黒い瞳は、美羽の方に向けられた。


「美羽さん、送っていこうか」


「聖さん、お願いします」


 美羽は力をふりしぼって、聖の右肩につかまった。


「ゆっくりでいいから、足を動かしていこう」


「聖さん・・・・・・・」


 聖はこちらに視線を向けた。


「清彦、さっきはごめんね」


「こちらこそごめん・・・・・・・」


「美羽さんを送り届けたら、ラインを送るようにするね」


「ああ。聖からの連絡を待っている」


 美羽の体は左に傾きかける。清彦は放っておけないと思い、左側から支えることにした。彼女を優先するより、倒れた女性を家に送り届ける方が優先順位は高い。


「山本君、ありがとう」


「聖さん、お金は持っている?」


「ちょっとだけなら・・・・・・」


「途中にコンビニがあるから、そこで食べ物を購入しよう」


「そうだね。何か食べないとね」


 美羽はちょっとだけ元気を取り戻す。聖は対象的にどんよりとしていた。

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