第22話 美羽との距離感
美羽と公園にやってきた。
「おにぎりを作ってきたの。よかったら食べない」
「船橋さん、ありがとう・・・・・・」
おにぎりを食べた直後、顔は真っ青になった。
「ま、ま、ま・・・・・・・」
全盛期の明日香に匹敵するくらいの、料理のまずさを感じる。見た目はそれなりを保っているけど、料理の味は0点だった。
美羽はおにぎりを一つ食べる。
「まずすぎる・・・・・・」
二人はペットボトルの水で、おにぎりを強引に流し込む。
「山本君、まずいものを食べさせてごめんね」
「気にしなくてもいいよ」
妹のまずい料理を食べていたことが、こんな場面でいきてくるなんて。マイナス体験は、デメリットばかりではないようだ。
「料理を始めたてだから、塩、砂糖の区別もつけられない状態なの。まともに作れるようになるまで、数カ月はかかると予想している」
「船橋さん、どうして料理を作ろうと思ったの?」
「ちょっとくらいは料理できないと、一人暮らしをするのに困るからね。自炊できないと、大学に通うのは難しい」
清彦は精神的ストレスからか、頭を強く抑える。
「イタタタタタ・・・・・・・」
「山本君、どうかしたの?」
「あることを思いだしたら、頭が痛くなってしまって・・・・・・」
美羽は慰めるために、清彦の頭を胸の中にうめる。聖と胸のサイズは大きく異なるため、柔らかさという観点では劣っていた。
「私はこれくらいしかできないけど、ちょっとくらいはプラスになってほしい」
優しくされたことで、美羽に対する恋愛感情も確固たるものに変化。二股をかけられた男は、二人の女性を同時に好きになるなんて。これから二人と会うとき、どのよ
うに接すればいいのだろうか。どんなにあがいても、正解を導き出せそうになかった。
自由を取り戻した頭は、彼女のほうを直視できなかった。胸いっぱいの罪悪感に包まれていた。
「山本君、どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
美羽は大きく背伸びをする。
「私は美人であること以外は、魅力はないと思っている。生活能力は極めて低く、掃除、料理、洗濯のいずれもできないんだ」
ドジっ子キャラクターは漫画では許されるけど、目の前にいるとストレスがたまる。遠くから眺めているのが一番いい。
「生活能力改善に向けて、日々努力しているところ。一年後くらいには、ちょっとはよくなっているんじゃないかな」
「ちょっとずつよくなっていくといいね」
「私の成長のために、山本君の協力は欠かせない。ちょっとでも力になってくれると嬉しいな」
眩しすぎるオーラを目の当たりにして、胸はズキズキと痛んだ。二人の女性を同時に好きになったことに対する、天罰を与えられたように感じられた。
「私と交際していただけないでしょうか。おつきあいしていただけたら、どんなことだってやります」
清彦はすぐに返事を出せなかった。
「ごめん、すぐに返事をするのは難しい」
美羽は鼻から息を吸った。
「聖さんを気にかけているんだね」
清彦は無言を貫く。美羽は反応を見て、心を完全に読んだ。
「二人のどちらがいいのか、悩んでいるのか。ぐいぐいといかなかったことで、事態は悪い方向に進んだみたいだね」
聖は破局後にすぐに、こちらに近づいてきた。美羽の絶好の好機は、長くても数日しかなかった。
「私はもう帰るね・・・・・・。胸に頭をうずめたことについては、気にする必要はないよ。私の欲望を満たすためだけに、やったことだから」
清彦はストップをかけなかった。声をかけたとしても、立ち止まることはないとわかっていたから。二人の女性を同時に好きになった男に、完全に愛想をつかした。
清彦は髪の毛を触った。美羽から受けた体温は、とっくのとうになくなってしまっていた。
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