第20話 頭のいかれた女性

 清彦の取り戻した平穏な日々は、再び壊されることとなった。


「清彦・・・・・・」


 母親に注意をお願いしても、家の前までやってくる。元カノはサイコパスレベルの、精神異常者である。


 盗聴器を仕掛けている時点で、人間の心を完全に捨てたに等しい。清彦は何のためらいもなく、スマホを取り出す。


「110番通報するから・・・・・・・」


 一瞬のためらいすらなく、警察に電話をかける。数コールで警察につながった。


「もしもし・・・・・・」


「家に盗聴器を仕掛けたストーカーが来ています。対応してもらえないでしょうか?」


 秋絵はさすがに驚いたのか、


「すぐに帰るから、警察沙汰にするのはやめて。親に知られたら、家を追い出される」


 といった。清彦はまったく相手にせず、警察との電話を続けることにした。


「年齢は17歳くらいで、身長は160センチ程度です」


 秋絵は続きをいわせないよう、清彦のスマホを払ってきた。ころころと転がったのち、水たまりの中に落ちてしまった。


 スマホは耐水機能を持つため、水たまりくらいは余裕。清彦は拾い上げたのち、警察に事情を説明する。


「ストーカーにスマホを傷つけられました。器物損害罪で対応してもらえないでしょうか?」


「わかりました。すぐにそちらに伺います」


 清彦は電話を切ったあと、秋絵を強烈ににらみつける。


「おかあさんに話をしてもムダなのか。お前の脳はどういう思考回路をしているんだ」


「清彦が復縁してくれないから・・・・・・」


「復縁に付き合う義務があるのか。二人はもう終わった仲だろ。盗聴器まで仕掛けるなんて、人間として終わっている」 


「清彦のことを好きになってからは、あなたを本命だと思っていた。交際していた男

については、すぐに別れようと何度も思った」


 前といっていることが違うような。こいつのいうことについては、一ミリたりとも信用できない。


 清彦の家に、警察がかけつけてきた。


「家に盗聴器を仕掛けたストーカーはどなたですか?」


「この女性です」


 警察は手錠をとりださなかった。


「今回は初めての相談なので、警告だけをします。次に同じことをしたら、ストーカーで逮捕することになるでしょう」


 清彦としては、この時点で逮捕してほしかった。失うもののなくなった女性は、何をしでかすのかわからない。心臓にナイフを刺されてからでは、あまりにも遅すぎる。


「ストーカーで警察沙汰になったこと、盗聴器を仕掛けたことは学校、親に報告します。未成年なので、再教育を必要とすると判断しました」


 秋絵は唇をバクバクと震わせた。


「学校にはいっていいけど、親にはいわないでください。ストーカーで警察沙汰になったら、親子の縁を切るといわれているんです」


 親子の縁を切られることになっても、自分の思いを優先させようとする。ONのスイッチだけで動いている、機械さながらである。OFFにスイッチを切り替えた途端、人間としての行動は終わってしまいそうだ。


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