第18話 盗聴器?

 聖と水族館にやってきた。


「山本君、今日はよろしく」


 胸を隠すための衣装ではなく、おっぱいを大きく見せるための服を着ていた。こちらを見ろといわんばかりの衣装に、どこに視線を送っていいのかわからなくなった。


 下着はスカートではなく、Gパンを履いていた。足については、隠すスタンスを取ったようだ。


「宮川さん、よろしくお願いします」


 聖はしきりに肩に触っていた。


「宮川さんどうしたの」


「血液が行き届いていないのか、肩は強烈に凝ってしまっているの。できることなら、肩をもんでもらいたい」


「彼氏でないから、ボディタッチは控えようと思っている」


 聖は小さく微笑む。


「山本君は律儀な男性だね。悪いように言い換えると、面白みに欠けるかな。セクハラはダメだけど、いわれたことはやってもいいんだよ」


 面白みに欠けるか。妹からも同じようなことをいわれた。


 聖は肩を差し向けてきたので、清彦はゆっくりと触れた。


「やや強めで・・・・・・」


「わかった・・・・・・」


 清彦は体重をかけると、聖は表情を歪めた。


「もう少し弱くして・・・・・・」


「わかった・・・・・・」


 肩をマッサージしていると、三股女に似ている女性を発見する。聖も気づいたらしく、後ろに隠れるようにいった。


「どうしてこんなところに・・・・・・」


 公園、遊園地ならありえるけど、水族館はさすがにないように感じた。仮にありえたとしても、日にちがかぶるのは謎すぎる。こちらの行動を先読みしているとしか思えなかった。


 聖は顎に手を当てて、答えを導き出そうとしていた。彼女の姿を見ていると、警察官とどことなく重なった。


 聖から導き出された答えは、清彦の予想をはるかに上回っていた。


「盗聴器を疑ったほうがいいかもしれないね」


 清彦は素っ頓狂な声を発する。


「盗聴器?」


 聖は真剣な表情で頷く。これを見ていると、本当なのかなと思えてきた。


「山本君と交際していた女性は、精神状態に明らかな支障をきたしている。盗聴器く

らいのことなら、当たり前のようにやるような気がする」


 携帯のアドレスを盗むような女性なら、盗聴器をやっても不思議はない。聖の意見には、大いなる説得力があった。


「交際していたときに、プレゼントをもらったりはしていない?」


 二カ月の交際で、一つだけプレゼントをもらった。交際歴にしては、お金のかかるものだった。


「USBメモリーをもらったような・・・・・・」


「それに盗聴器を仕掛けられているかもしれないね。家に帰ったら、チェックしたほうがいいよ」


 処分するのが惜しくて、現在も使用していた。あれに盗聴器を仕掛けていたなんて、人間としての一線を越えている。


 唇をパクパクさせていると、聖は温かく包み込んでくれた。


「山本君、いろいろと辛い思いをしているんだね。私の胸の中に、苦しい思いを全部吐き出していいよ」


 聖の胸に包まれたときに、感情の激しい揺れを感じた。優しくされたことによって、本気で恋をしてしまった。


 数秒後、美羽に対する感情も、恋愛感情であると認知する。二股をかけられた男は、二人の女性を同時に好きになってしまった。


 聖はゆっくりと体を離す。


「山本君、メンタルは回復した」


「ちょっとは・・・・・・・」


 メンタルは回復したけど、心拍数は異常に早くなっていた。口をパクパクさせていたときよりも、ある意味では危なかった。


 聖の胸を見ていると、彼女は意図を汲み取っていた。


「もう一度だけやってみる?」


 清彦は自分の思いに正直になった。


「お願いします」


「今度は自分から飛び込んでおいで」


 清彦が頭を預けると、聖は優しく包み込んでくれた。


「よしよし。よしよし。よしよし・・・・・・」


 あんな裏切られ方をしたのに、新たな異性を求めている。恋愛依存症にかかっているのかなと思った。


 清彦の頭、聖の胸が離れる。心の中のドキドキは、抑えられないレベルに達していた。


 聖はFカップ以上の胸に手を当てた状態で、


「私でよければ、交際してほしいです。私は6年前くらいから、山本君のことが大好きです」


 といってきた。いい雰囲気になったところで、一気呵成に物事を進めようとしている。


「すぐには返事できない・・・・・・」


 美羽は小さく瞬きをする。


「山本君、結論をゆっくりと出していいよ。私はどんな展開になっても、恨んだりはしないから」


「宮川さん・・・・・・」


「元々は99パーセント勝ち目のない勝負。敗れたとしても、ダメージは最小限に抑えられる」


 聖の目は赤く染まった。表向きは問題ないといっているけど、実際のところは明らかに異なる。


「イルカなどを見て回ろうよ」


 聖はそっと手を差し出してくる。清彦はちょっとだけ考えたのち、ゆっくりと手を重ねた。とっても嬉しいはずなのに、とっても悲しかった。

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