第16話 たくさんの男と恋愛して何が悪い(秋絵視点)

 二カ月だけ交際した元彼に、必死にアプローチを続けるも、良い結果はまったく得られなかった。私はこんなに思いを伝えているのに、どうして届かないのだろうか。あんなに気持ちを伝えれば、普通の人なら本気であることに気づいてくれるはず。


 恋愛は両想いになる必要はない。片方が好きになれば、相手を追いかけまわしてもいい。秋絵はそのように解釈している。


 清彦に恋心を持ったのは、四カ月くらい前。彼のさりげない仕草に対して、心を奪われてしまった。以降は彼のことを考える時間は増えていく。一日の四分の一を、彼のために費やすこともあったくらいに。


 秋絵は当時、交際している男性がいた。交際歴は一年くらいで、それなりに楽しく過ごしていた。最高というわけではないけど、最低というわけでもなかった。


 彼のことを好きになってからは、一緒にいるのはおっくうになっていく。何度も別れ話を切り出そうとするも、なかなか言い出すことはできなかった。ずるずると関係を続けてしまっていた。


 二股に対する罪の意識も低かった。一人の女が複数の男と交際するのは当然の権利。何物も縛ることは許されないのだ。


 心の弱い女性は彼氏をキープした状態で、清彦に交際を申し込む。彼氏を持っていても、他の男性と付き合いたい感情を優先した。


 清彦はOKし、二股をスタートさせる。もう一人の男性については、隠し通せると思っていた。

  

 二股の噂はあっという間に広がっていき、清彦にもばれてしまった。世間は広いようで、狭いことを思い知らされた。


 二股を許してくれる展開を期待したけど、望んだ結果は得られなかった。わずか二カ月で、交際にピリオドを打たれた。


 よりを戻すために、死に物狂いで行動する。相手の心を開くどころか、どんどん殻に閉じこもるばかり。二股をしたという事実は、絶対に許しがたい出来事だったようだ。


 彼との交際は期待できない状態だったこともあり、いろいろな男性に声をかけてみる。何人か交際できたものの、欲求を満たすことはできなかった。秋絵にとっては、一緒にいても面白くないタイプだった。


 三人と交際したのは、やけっぱちになっていたからだ。彼と交際できないストレスによって、自分を見失ってしまった。


 私は彼のことが真剣に大好き、だからどんな手段を使ってでも交際を再開させてみせる。誰を傷つけることになっても、誰を苦しめることになっても、自分の幸せのために生きてやる。私さえ幸せになれば、他人はどんなに不幸になっても構わない。人間社会というのは、いかに他人を利用して、自分をよくするのかを考える場所だ。


 清彦は破局してから、二人の女性と接近しているという情報を得た。彼女たちのどちらかと交際する前に、自分の恋人にする。交際を開始したとしても、アプローチをかけ続けてやる。彼を幸せにできるのは、地上で私だけである。


 プレゼントのUSBに仕込んだ、小型盗聴器で彼の声を聞く。生の声を聞くことで、心はしばしの安静を取り戻した。


 盗聴器がばれたら、さらなる手段を取ろうと思っている。どんなことがあっても、接点を保ち続けるつもりだ。


 秋絵の部屋に、父親がやってきた。


「秋絵、迷惑をかけるようなことはしていないな」


 父は非常に厳格な人で、卑怯なことを徹底的に嫌う男。秋絵のやっていることが知れたら、何をされるかわからない。


「おとうさま、問題ありません」


「次に何か発覚したら、GPSをつけた状態で生活を送ることになるからな。お風呂なども監視するから、覚悟しておけよ」


 GPSという言葉を聞き、背中から大量の冷や汗が流れた。盗聴器の存在を知られた時点で、自由をすべて奪われる。


「姉はよくできているのに、おまえは最低レベルだ。私と妻のおなかから生まれたとは思えない。欠陥品は娘とはいえないぞ」


 父の暴言がなければ、まともな女性に育っていたと思われる。私はこの男と生活したことで、正常な思考回路を失った。論理的な考え方もできなくなり、わけのわからない生き方をするようになってしまった。


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