第13話 美羽の寝不足

「カレーライスの味はどうだった?」


「甘いお菓子を食べているような気分になった。あれはさすがにやりすぎという印象を受けた」


 本日ははちみつの量を、通常の3倍にしていた。あんなにいれてしまっては、カレーの味は損なわれる。


 美羽は水を飲んだ。塩分を中和するのではなく、甘さを和らげるためだと思われる。


「普段はもうちょっとだけ自重するんだけど、女の子を連れてきたからテンション上がったんだと思う」


 女性を連れてくると知ったときから、テンションは明らかに高かった。100くらいの質問攻めをされるなど、息子の連れてくる異性に興味を示していた。あんなことをされるのであれば、前日まで黙っておけばよかった。


「そ、そうなんだ」 


 美羽はゆっくりと息を吸った。 


「山本君の家にやり取りを見ていると、どこの家も同じようなものみたいだね」


「船橋さんの家も同じなの?」


「そうだよ。意見の食い違いばっかりで、いい雰囲気になることは少ないかな。都合が悪くなると、大人の力でいいきかせようとする」


 大人は権力を使って、子供にいうことを聞かせようとする。円満解決をするつもりは、まったくないと思われる。


「妹さんについては、とっても明るい性格をしているね。私もあんなふうになれればいいな・・・・・・」


 明日香はねじを外したかのように、ポジティブ思考で生きている。ああいう生き方をしていると、薬と無縁の生活を送れそうだ。薬物を摂取しないことで、長生きにつなげやすくなる。


「船橋さんは自分らしく生きればいいよ」


「そうだね。自分らしく生きるようにする」


 清彦は彼女の家族について質問する。


「船橋さんには、きょうだいはいるの?」


 美羽は小さく頷いた。


「19歳年上の姉、18歳上の姉がいるけど、記憶にはほとんど残っていないんだ。姉たちは20歳くらいで結婚して、他の家に嫁いでいった。物心をつく頃には、姉たちは家庭にはいなかったから、一人っ子さながらに生活しているよ」


 血のつながった姉をおぼえていない。彼女の家庭は、特殊であると感じた。


「ときどき顔を合わせることもあるけど、おねえさんではなくおかあさんみたいに感じるよ。20くらいも離れていると、おねえさんとして接するのはムリだね」


 結婚していなければ、実の姉であるとみなせた。結婚したことによって、姉妹間に距離を生じさせることになった。


 美羽は眠いらしく、大きな欠伸をする。


「船橋さん、どこかで休む?」


「うん。休めるところがあるなら、ちょっと休みたい」


「船橋さん、どうかしたの?」


「男の人の家に行くからか、夜はずっと覚醒していたの。どんなに目を瞑っても、眠れるようには思えなかった」


 美羽をどこに案内しようと考えていると、二股女と鉢合わせすることとなった。偶然であるため、警察に相談するのは難しい。清彦はどのようにして乗り切るのか、必死に知恵を絞った。


 二股女は大学生くらいの男と一緒だった。同じ学校ではないことから、ネットなどで知りあったと思われる。彼氏をゲットするためだったら、どんな方法でも用いるよ

うだ。執念のすごすぎる女に、人間にある種のおぞましさを感じた。


 大学生と一緒にいるからか、こちらに話しかけてくることはなかった。一難をしっかりと乗り越えられたことに、安堵の息を漏らしていた。


 美羽は瞼を閉じ、立ったままの状態で眠ろうとしている。清彦は実家に電話をかけて、明日香に迎えに来てもらうことにした。どんなに華奢だとしても、一人では心もとない。

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