第12話 美羽がやってきた
美羽はカレーライスを食べるために、山本家にやってきた。それだけのために家を訪ねるなんて、食べ物に対する執着は強いのかなと思った。
美織はクラスメイトの女性を前にして、いつにもなく興奮していた。
「はじめまして、母の美織です」
ライバル意識を燃やしているのか、モンスターさながらのメイクを施していた。どんなに頑張ったとしても、17歳の女性よりもきれいになれるはずはない。絶対に勝ち目のない勝負に挑む母親に対し、現実を知ったほうがいいと思った。
「船橋美羽といいます。今日はお世話になります」
美織は許可を得ない状態で、品定めを始める。美羽は恥ずかしいのか、腕で胸などを覆っていた。
「じろじろと見るのはやめていただきたいです」
美織は楽しみを奪われたからか、ブスっとした表情をする。
「こんなに美人な女性は、テレビでしか見たことなかったのに」
写真集を発売してもいいくらい、美しい体をしていた。彼女の親は会ったことないけど、よほどの美人であると推測される。
美織は皺の寄った手で、清彦の頭をなでなでする。化粧をきっちりと拭き取っていないのか、粉っぽさを感じた。
「女性を家に連れ込むなんて、清彦も立派になったね。二股をかけられたと聞いたときは、価値のない男だと思っていたよ」
「おかん、言い過ぎじゃないか」
「女性を満足させられないのは、男としては底辺レベルだよ」
「おかん、さりげなくディスってないか」
美羽は二人の会話が面白いのか、口元に手を当てていた。美織は恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしていた。
「うちのバカ息子が、素直にいうことをきかないものだから」
「バカ息子はひどくないか」
「美羽さんもいるんだから、それくらいにしておきなさい」
「喧嘩を売ってきたのは、おかんの方だろう」
美織の視線は、美羽の方に向けられた。
「とりえは何もない息子ですけど、よろしくお願いいたします」
「はい。よろしくお願いします」
「カレーをこれから作るから、楽しみに待っていてね」
「はい。ありがとうございます」
三人のいるところに、ポジティブ全開女性がやってきた。
「おにいちゃん、新しい彼女ができたんだね」
美羽は彼女という言葉を聞き、顔を赤く染めていた。
「今はそういう関係じゃないよ」
明日香は物怖じしない性格を、前面に打ち出した。
「今はそうじゃなくても、未来は交際するってことかな?」
「それはわからないけど・・・・・・」
明日香は鼓舞するかのように、清彦の背中を思いっきり叩く。体を鍛えているのか、それなりの痛みを感じた。
「おにいちゃんもやるじゃない。こんなに素晴らしい女性は、なかなか見つかるもんじゃないよ」
美羽は褒められたからか、顔を真っ赤に染めていた。
「美羽さん、髪の毛に触ってもいいですか?」
「同性であったとしても、髪の毛を触られるのはあんまり・・・・・・」
浮気の話をしたあと、一日限定で胸を触ってもいいといっていた。あれについては、本音ではなかったのだろうか。
母親はいつも以上に、はちみつをカレーに投入。口にしていないものの、甘すぎるというのは伝わってくる。第三者にふるまうのだから、甘さをちょっとくらいは自重してほしかった。
「美羽さん、あと20分くらいで完成するよ」
「ありがとうございます。とっても楽しみにしています」
「美羽さんのために、とっておきのカレーを作るね」
美織のテンションはいつになく高い。こういうときは得てして、ろくでもない展開になりやすい。美羽は無事にカレーライスを完食できるといいけど。
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