第10話 新しいアドレスを盗み見して、ラインを送ってくる元カノ

 清彦の携帯アドレスに、思いもよらない名前があった。


「清彦、よりを戻したい」


 目をごしごしこすったあとに、送り主を確認する。まぎれもなく、秋絵と書かれていた。


 新しいアドレスは教えていない。入手する方法があるとすれば、盗み見をした場合に限られる。


 スマホを手放したのは、ほんのちょっとの期間だけ。かすかなスキを突いた女の根性に、やばすぎるものを感じた。一定以上おかしくなった女に、つける薬は存在しないようだ。


 こんな女と関わっていたら、ノイローゼどころでは済まなくなる。事態を打開するために、最終手段を取ることにした。できることなら、これだけは絶対にやりたくない方法だ。


 3コールくらいあとに、電話を取る音があった。


「もしもし」


「秋絵様のお母様でしょうか」


 秋絵の母親は、声だけで誰なのかを認知する。


「清彦さん、お久しぶりです。娘とはうまくやっていますか?」


 秋絵は破局したこと、原因は自分にあることを伝えていないようだ。現実を知らない母に対して、されたことをあますことなく伝えた。


「娘がそんなことをしたんですか?」


「破局をしたあとに、ラインのアドレスを変えました。それにもかかわらず、メッセージが送られています。いつかはわかりませんけど、アドレスを盗んだとしか考えられません。こちらとしては、我慢の限界です。次に何かあった場合、警察にストーカーとして通報します」


 母親は電話越しに、謝罪を前面に打ち出す。


「娘にはきつくいっておきます。ご迷惑をかけてしまい、大変申し訳ありませんでした」


 両親にかければ、事態は収束に向かうと思われる。清彦は淡い希望を胸に、電話をオフにする。男はこのとき、続きがあるとは知る由もなかった。


 

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