第2話 学校一の美人に慰められる

 秋絵と交際をスタートさせたのは2カ月前。60日という短い期間で、他の男性に心変わりしたことになる。


 清彦が知らなかっただけで、最初から二股をかけられていた可能性もある。ハグをしていた男性は本命、こちらは保険という扱いだった。そのように考えると、やりきれない思いになった。


 負け犬オーラを漂わせていると、船橋美羽に声をかけられた。接点はほとんどないものの、体育祭のときに二~三度ほど話をした。知り合い以上、友達未満の関係である。


「山本君、どうしたの?」


 美羽はぱっちりとした目、とってもきれいな肌、アイドルさながらの体型をしている。それゆえ、狙っている男子生徒はたくさんいる。


 学校のマドンナは一年前に交際スタートさせた。学校一の美人のお付き合いとあって、高校十は大騒ぎだった。


 二人のお付き合いは一年ほどで終了。パーフェクトな女性を手放すのは、あまりにももったいないように思った。


 普段なら話さないけど、今回はどうしても聞いてほしかった。清彦は目の当たりにした光景を伝えた。


「浮気をされたのか。かなりつらい思いをしたんだね」


 負け犬は力なくいった。


「噂を信じていれば・・・・・・・」


 美羽は小刻みに瞬きをする。


「悪いのは浮気をしたほうだよ。山本君は何も悪くないよ」


「そうだけど・・・・・・」


 船橋は隣に腰掛けた。


「浮気は本当に辛いよね。私も交際していた男性に、浮気をされたんだ」


「船橋さんも・・・・・・」


 男性の憧れの的が、浮気をされるなんて信じられなかった。彼女は浮気をするが他の人間だと思っていた。


 美羽からきれいな首筋が浮かび上がった。あまりに美しいので、造形なのかなと思えるほどだった。


「交際をスタートさせて、一年くらいたったときだよ。他の女性とハグしている場面を見かけたの。自分を全否定されたようで、とってもつらかったよ。浮気のことを問い詰めたら、君といるのはもう疲れたといわれた」


 二カ月で浮気される、一年で浮気されるのはどちらがきついのか。片方の経験だけでは、結論を導き出すことはできなかった。


 清彦は励ますために、美羽の背中に手を当てる。普段はとっても臆病者なのに、どうしてしまったのだろうか。


 どさくさ紛れに触っている最低男に、美羽は優しい笑顔を見せてくれた。


「山本君、ありがとう」


 清彦の掌の十センチくらいのところに、美羽のきれいな髪の毛がある。手入れをきっちりとしているのか、サラサラとしているのを感じさせた。


「失恋で苦しんでいる今だけは、特別に何をしてもいいよ。私の胸の中に思いっきり飛び込むのもOKだからね。胸を直に触るのもOK」


 浮気されたという事実は、彼女にちょっとした同情心を生んだ。本心は読めないけど、そういったところかなと思った。


「交際中の身だから、ハグをするのはやめておくよ。浮気を堂々とした女性と、同類に扱われるのは絶対に嫌だから」


「そうだね。私たちも同罪になっちゃうね」


 学校一の美少女とハグするチャンスを逃した。10年後、20年後も引きずってしまうかもしれない。


「美羽さん、浮気された時のことを詳しく聞いてもいい」


「うん。いいよ」


 浮気されたときのことを、洗いざらい話してくれた。本気で悔しかったのか、ときおり涙を流していた。


 美羽は目を充血させながらも、柔らかい笑みを見せてくれた。


「同じ苦しみを持つ人に打ち明けたら、とってもすっきりしたよ。山本君、今日は本当にありがとう」


 美羽はポケットの中から、白い飴玉を取り出す。


「話を聞いてくれたお礼だよ。家でゆっくりと食べてね」


「船橋さん、ありがとう」


 飴玉を受け取るとき、指はかすかに触れる。失恋の傷をいやすのに、ちょうどいい温度をしていた。


「山本君が破局したら、連絡交換をしようよ」


「わかった。約束する」


「指切りげんまんしようよ」


「ああ・・・・・・」


 二人は指切りげんまんする。学校一の美少女の指は、繊細かつとても柔らかかった。


「山本君・・・・・・・」


「船橋さん、どうかしたの?」


「ううん、なんでもないよ」


 船橋はしょんぼりとした顔をするも、とってもかわいかった。美人に生まれたら、

どんな表情をしてもかわいくなるのかなと思った。

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