大文字伝子が行く52改

クライングフリーマン

活動家教師

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。

 愛宕(白藤)みちる・・・愛宕の妻。巡査部長。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。モールで喫茶店を経営している。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。

 橘なぎさ二佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。

 渡辺副総監・・・警視庁副総監。

 金森和子一曹・・・空自からのEITO出向。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。

 青山警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕の相棒。

 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

 馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

 右門一尉・・・空自からのEITO出向。

 鈴木校長・・・民間登用の小学校校長。南原と文子をお見合いさせた。

 藤村警部補・・・高速エリア署刑事。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師。

 南原蘭・・・南原の妹。美容室に勤務している。

 大田原文子・・・南原の婚約者。

 南原京子・・・南原の母。

 服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。

 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

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 伝子のマンション。

「お見合い?」伝子は、鈴木校長の来訪を受けていた。

「ええ。これが南原さんのお相手です。」と、鈴木はスマホの写真を伝子と高遠に見せた。「綺麗な方ですね。」「南原には勿体ない位だ。」

「この方は塾を経営されていて、婿養子を望まれていたんです。南原さんは、組合活動が嫌で非常勤で教師をされている、と伺っていたので、ぴったりだと思ったんですよ。」

「詰まり、ご夫婦で塾経営の形がいい、と。」と、高遠は言った。

「それでね、一応話がまとまって、今日はデート日だったんです。ところが、連絡がつかないので。ご自宅にもスマホにも連絡しましたが・・・。」と鈴木が逡巡しているのを見て、伝子は「それで、こちらに。学。まず、蘭の美容室に連絡だ。」と言った。

「妹さんは美容室で働き出してから、引っ越しして自立していますが、行き来はあるんです。」と、鈴木に説明した。

 高遠はスピーカーをオンにした。「昨日は有給でお休みだったんですが、今日は連絡がつかなくて困っていたんですが・・・。」と、店長は言った。

 伝子は、「実はお兄さんも連絡がつかないんです。一緒に行動して、何かトラブルがったかも知れませんね。子細が分かり次第、そちらにも連絡します。」と言って、高遠は電話を切った。

 伝子は意を決した。愛宕に電話をし、スピーカーをオンにした。

「あ、繋がった。愛宕、急に済まない。南原との連絡が付かない。事件か事故に巻き込まれたかも知れない。蘭も行方不明だ。」

「了解です。事故物件、調べてみます。あ。DDバッジ、押して無くても身に着けていればエリアだけは特定出来ます。EITOに確認してみてはどうでしょうか?その情報と重ねましょう。」電話は切れた。

 高遠は、EITO用のPCを起動し、経緯を草薙に連絡した。「了解しました。エリアを特定しましょう。」

 伝子は、隠していたEITOのことを簡略に鈴木に話した。「そうですか。ミニ運動会はEITOの前身の組織が開いてくれたんですね。いいんですか?私は部外者ですよ。」

「部内者、いや、関係者でしょう。南原の仲人してくれるんでしょう?鈴木さん。」

「ええ。えと、何か誓いの儀式みたいなことは?」「映画の見過ぎですよ。ただ、今言ったDDバッジは、鈴木さんの分も発行させましょう。これでも。アンバサダーという行動隊長をしているので。」

「また、仲間が増えましたね、伝子。」と、高遠が二人の会話に割って入り、嬉しそうに言った。

 5分後。EITO用のPCが起動した。草薙から連絡が入ったのだった。

「千葉県との隣接エリアですね。こちらからも、丸髷署に連絡を取り、その付近から交通事故があったことが分かりました。後は、愛宕さんに任せましょう。」画面は消えた。

 入れ替わりに、高遠のスマホに愛宕から電話が入った。高遠はスピーカーをオンにした。

「高遠さん、先輩。やはり、交通事故でした。高速で玉突きです。南原さんに相当する人物、蘭ちゃんに相当する人物が運ばれたのは、高速近くの『南出病院』です。我々も向かいます。」

「よし。学、行こう。支度しろ。美容室に連絡しろ。鈴木さん、行きましょう。あ、お相手の方にも連絡を。」

 南出病院。

 救急搬送口で伝子が病室を尋ねていると、横から警察官が、「大文字さんですか?こちらへ。」

 案内された病室では、頭、右手、左足に包帯を巻き、左足をギブスで固定され、点滴を受けてベッドに寝ている南原がいた。

 傍らには、調書を取っている警察官がいて、愛宕が見守っていた。

「あ、先輩、高遠さん。鈴木さん。」と愛宕が挨拶をした。「命に別状はないようです。先頭車両の脇見運転かも知れませんね。」

「高速エリア署の藤村です。大文字さん、お噂はかねがね・・・。検査は続きますが、内臓には損傷がないだろうという診断です。妹さんは、別室です。落ち着いたら、同室にしてくれるそうです。」

「ご苦労様です。南原、分かるか?災難だったな・・・はふさわしくない挨拶かな?」

「前の車が急ブレーキをかけたので。前の車の前の車が急にはみ出てきたようです。後ろの車も間に合わなかったようです。」

「それだけ、しゃべれれば大丈夫だ。今日は何の日か覚えているか?」という伝子に応える時、鈴木がいるのを見て、「今日は2回目のデートの日でしたね。済みません。鈴木先生。」と謝った。首は固定されているので動かせない。

「大田原さんには、連絡しました。タクシーでこちらに向かっています。」「ありがとうございました。」

 その時、医師が入って来た。「あなたは、配偶者の方かな?」と医師は伝子に尋ねた。

「いえ。南原は学校の後輩です。」「ほう。珍しいケースだな。どなたか、ご家族に連絡は?」

 愛宕が一歩踏み出し、「私から松本市のご実家に連絡しました。」「そうですか。では、コホン。」と咳払いした医師は、「見ての通り、骨折箇所は多いです。検査は順次行います。全治半年、といったところでしょう。」と所見を述べた。

 30分後。大田原文子はやって来た。モデルか女優のような外見だ。

「南原さん。婿入り前の体がめちゃくちゃだわ。」「婿入り?」「え?私、ふられたの?塾の先生も悪くないな、って言ったじゃないの。婚前交渉しなくちゃダメだったのかしら?」「え?」

 噛み合わない二人の会話に鈴木が割って入った。「詰まり、二人は意気投合して、結婚を前提のお付き合いを始めた。その矢先に南原さんは事故に逢われた。大田原先生。振られたなんて、とんでもない。デートに行けなかったことを悔しいと思っている事は、先ほど南原さんからお聞きしていますよ。ねえ、大文字さん。」

「あ。ああ。南原の、大田原さんへの愛は絶対です。そうだろ?南原。」と伝子はフォローした。

「はい。すっぽかした訳じゃないけど、普通は連絡つかなかったら、帰りますよね。鈴木先生にお願いして、大文字先輩が交通事故被害者である僕を探し出してくれた、そうですよね。先輩。鈴木先生。」

「まあ、私ったら、はやとちりして。鈴木先生。仲人お願いしますね。」「勿論ですとも。さっき大文字さんにも二人のために仲人をお願いします、と言われたばかりです。」

 伝子は笑って、「じゃ、蘭の様子、見てくるよ、南原。鈴木先生。ここはお願いします。」伝子は一礼して、廊下に出た。

 クスクスと笑いながら、「流石先輩ですね。あっと言う間にカップル誕生。病室聞いてますから、行きましょう。」と愛宕が言った。

 蘭の病室。

 美容室の店長が来ている。「あ。先輩。」「お兄さんは重傷だけど、蘭ちゃんは奇跡的に軽傷だから、数日検査入院して、自宅に帰れるそうです。お父さんお母さんは明日の朝イチで上京するそうです。」と、店長が説明した。

「以前、依田さんに教えて貰ったの。私まだ免許と取り立てだから、ひとの運転の車の助手席に乗っていて、事故に遭ったら、シートベルトだけあてにしないで、しがみつける所にしがみつけ、って。まあ、結局、スーパーガールしたけどね。あ。空を飛んだけどね。」と伝子に報告した。

「じゃ、僕は帰るね。出勤は来週からでいいからね。それじゃ。」と、店長は伝子に挨拶して帰って行った。

「退院したら、ウチにおいで。退院祝いをしてあげるから。」

「ありがとう。先輩。」「お兄ちゃん、どう?」「今、婚約者さんと仲人さんといる。良かったな、蘭。お義姉さんが出来るぞ。」蘭は目を白黒していた。

 病室を出ると、高速エリア署の藤村が、愛宕と待っていた。「大文字さん。少し相談に乗って貰えませんか。」

 高速エリア署。玉突き事故の捜査本部。

「皆さん。こちらは丸髷署の特別顧問の大文字伝子さんです。普段は、丸髷署を含めた交通安全教室や高齢者詐欺対策教室のアドバイザーをされております。今回、その教室のグループメンバーが事故の被害者であることもあり、オブザーバーとして出席頂きました。」

 作戦本部長である、エリア署署長が、もっともらしい紹介をした。恐らく、丸髷署署長が手を回したのだろう。

「スクリーンの用意を。」藤村が合図をすると、プロジェクターでスクリーンに事故の様子が映し出された。「これは、先頭車両のトラックのドライブレコーダーの映像です。じっくり、見て下さい。」7分くらいで映像は終わった。

「大文字さん、何か気になることがありましたか?」と藤村が尋ねると、伝子はすかさず「進行妨害ですね。3回の光は。カーブがあるから、同じ場所からの光、多分、鏡ではないでしょうか?」おおお、というどよめきが捜査本部会場に流れた。

「高速の近くに竹林があります。今、大文字さんが指摘されたように、竹林の間を縫って道路は走っています。竹林の中からピンポイントで光を放っています。地主の了解を取り、林業の方に竹林を調べて貰うのが、捜査を進める第一歩だと思いますが、どうでしょうか?」と、藤村は皆に問いかけた。

「藤村主任。光が意図的なものだと仮定すると、怨恨の線が考えられますか?」と、捜査員の一人が手を上げて言った。「あり得ますね。先頭車両のドライバーだけでなく、後続車の場合も考えておいた方がいいのかも知れない。」

「よし。事故の目撃者も大事だが、この線も追わない訳にはいかない。分担を決めよう。」

 愛宕の車中。

「先輩。どう思います?藤村さんと同じ所に気が付いたってことは、怨恨の線は濃厚ですか?」「濃厚だとすると、南原が狙われたのかも知れない。先頭車のドライバーも、他の車のドライバーも巻き添えかも知れない。結局、私のせいだな。」

「先輩のせい?」「お前達は私と一心同体、は大袈裟か。所謂『濃厚接触者』だ。死の商人に素性がばれていて、私を追い詰める為の道具にされているかも知れない。」

「先輩。飛躍しすぎでは?」「ああ。飛躍であって欲しい。とにかく、運転に気を付けるように皆に連絡しておこう」。」「さっき、僕がLinenで連絡しました。高遠さんが、EITOにも報告したそうです。先輩の言う『巻き添え』の可能性を考慮して。高遠さん、変わったなあ。みちるも言ってました。逞しくなって来た、って。」

「ああ。成長したんだな。DDとEITOの両方のフォローをしている。最近、小説を書いている学を見たことがない。私の翻訳の原稿が遅れがちな時は手伝ってくれているが、自分の仕事は、頓着しない。」

「編集長、怒らないですか?」「怒らない。怒れないんだよ、事情を知っているから。だから、連載は書かせない。短編やコラム中心だ。」

 伝子のマンション。

 高遠が愛宕に報告している。

「美容室からお礼の電話がありました。ああ。愛宕さんに青山警部補から伝言。当面、高速エリア署の応援に行け、と。それと、明後日に予定していた交通安全教室と高齢者詐欺対策教室は延期に、と。それで、ヨーダ達にも連絡しておきました。」

「いい婿殿でしょう?有能よね。時々私を誘惑するのが困るけど。」と綾子が顔を出して言った。

「お義母さん、止めて下さいよ。」と、高遠が困った顔をした。「高遠さん、本気にしてませんよ。」と、愛宕は笑った。

「あ。そうだ。南原さんの事故のこと、池上先生に話したら、南出病院に所見送って貰うって言ってました。私が主治医だからって。」と高遠は伝子に追加報告をした。

「じゃ、僕はこれで。」と愛宕が言うので、伝子は「ああ。お疲れ様。応援がんばってくれ。」と、愛宕を励ました。

「大変なことになったわね。信州だっけ?ご実家。」と尋ねる綾子に「明日、朝イチで来るってさ。」と伝子は応えた。

 午後7時。伝子達が夕食をとっていると、管理官用のPCが起動した。

「ごきげんよう、高遠君、大文字君。そちらにおられるのは大文字君のお母様かな。初めまして。」と副総監は挨拶した。

「初めまして。大文字伝子の母、綾子です。伝子と婿がいつもお世話になっております。」

「差し支えないかな、大文字君。アンバサダー。」「母には殆ど話しています。差し支えありません。」

「例の交通事故だが、どのドライバーにも怨恨の線が出てこない。そう思っていたが、南原氏の勤める学校の元講師から情報が入った。根気よく聞き込みをした結果だな。南原氏が非常勤を続けるのは、組合に参加したくないからだ、と愛宕警部補から聞いている。それで。元講師によると、以前、熱心に南原氏を組合に誘っている、女性教師がいた、と言う。」「初耳ですね。」

「たまたま、その講師がファミレスで食事をしていたら、離れた席で二人が口論をしていた、と言う。彼女は激高して出ていった。南原氏が出ていく時に彼に気づいて口止めを頼んだそうだ。」「逆恨み、ですか。」

「今度の件は、先日の『死の商人』とは無関係だ。明日の朝、おびき出す。転院のニュースを流してな。現場に立ち会うかね?立ち会うなら、高速エリア署の藤村主任に連絡したまえ。では。ああ。久保田管理官は休暇だ。」

 高速道路上を救急車が走っている。南原を転院させる為の救急車だ。突然、救急車は横転して、非常駐車帯に突っ込んだ。竹林の光は消えた。他の車は次々と通過したが、数分後、1台の車が止まった。一人の女性が出てきて、救急車の後部ドアを覗き込んだ。

 出てきたのは、狐面の女だった。「誰を探している?福部京子。」

 間もなく、白バイ隊とパトカーがやって来た。白バイから降りた、あつこが言った。

「あなたには黙秘権があります。知ってるわよね、協賛主義者だから。逮捕します。」

 パトカーから、藤村と愛宕が降りて来た。「私は腱鞘炎でね、頼むよ、警部補。」

 愛宕が手錠をかけた。「事情は署でゆっくり聞きましょうか。あ。お仲間も捕まえましたから。」と藤村は言った。

 パトカーが去った後、伝子が声をかけた。「もう、いいわよ、金森。」

 金森が救急車から這い出てきた。「自衛隊は、スタントマンまがいが得意だな。」と伝子は、あつこに言い、あつこと伝子が笑い、金森も笑った。

 南原の病室。「福部さんは、『死の商人』に目を付けられたんですね。じゃあ、僕は大文字先輩の後輩だから狙われたんじゃないんですね。」と、南原は言い、物部は「ああ。違った。安心して寝ていてくれ。」

「大丈夫ですよ、皆さん。こんな立派な嫁が出来たんですから。婿養子になっても、嫁は嫁よ。ずっと、息子を守ってくれるわ。」と、南原の母京子が言った。

 服部がギターを抱えて病室にやって来た。

「一曲どうですか?」という服部に「にいちゃん、愛さんさん、って弾けるかい?」と物部が言った。

「勿論。皆さん、よろしければ、ご唱和を。」服部のギターで皆、唱和した。


 雨 潸々と この身に落ちて

 わずかばかりの運の悪さを 恨んだりして

 人は哀しい 哀しいものですね

 それでも過去達は 優しく睫毛に憩う

 人生って 不思議なものですね


 風 散々と この身に荒れて

 思いどおりにならない夢を 失なくしたりして

 人はかよわい かよわいものですね

 それでも未来達は 人待ち顔して微笑む

 人生って 嬉しいものですね


 愛 燦々と この身に降って

 心秘そかな嬉し涙を 流したりして

 人はかわいい かわいいものですね

 ああ 過去達は 優しく睫毛に憩う

 人生って 不思議なものですね


 ああ 未来達は 人待ち顔して微笑む

 人生って 嬉しいものですね


 歌:美空ひばり

 作詞:小椋佳

 作曲:小椋佳


 ―完―




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