第9話 攻防


「この馬鹿ちんが」

「だってこのジジイが」

「あんたもあんただ、こんな子供相手に」

「ガハハ、坊主もなかなかやるわい」

 中に入って来た二人はクリームだらけの松太を見て、

「なんで俺のいない間に何か食ってるんだよ」

「なんじゃその食いもんは」

 似た二人のようで笑いが止まらない。

「あはは、これ二人の分」

 それを取ると口に入れる。


「うっめぇ!」

「…あまいのぉ」

 お爺ちゃんは甘すぎるみたいなのでお茶をだす。

「ありがとのぉ」


「お爺は辛いのが好きだ」

「なら激辛焼きそばでいいか」

 渡すとモリモリ食べて辛くないのかと聞くと、

「この辛さがいいんじゃ」

 と唸っていた。


 満腹になったみたいで良かったが、挨拶にきて喧嘩して仲直りしてる。

「このハス爺にこんだけついて来れるとは末恐ろしいガキだのぉ」

「このジジイは硬くてだめだ、歯がたたねぇ」

 いや、しっかり歯形がついてるけどね。

「ハス爺さんはここまで空から来たんですか?」

「そうじゃ、スピーダーに乗ってのぉ」

 そうなんだ、だからモンスターにもあわなかったのかな?

「途中で飛龍にあった時は肝が冷えたワイ」

「スピーダーだから逃げれたけどね」

 やっぱりあったんだ。

「キング?」

 影から出て来たキングは寝そべっている。

「なんだ?」

「この嬢ちゃんを守ればいいのか?」

「そうだ。雪も戦えるがな」

「そうかそうか、いや、わしが東で八兵衛が西におりゃ大丈夫じゃろ」

「何かあればすぐに駆けつけてやる」

 キングはそう言うと影に入ってしまった。

「なんじゃ飲み比べでもしようと思っとったのに」

「じゃあ、私と飲み比べしましょう」

「お菊とか、まぁいいじゃろ」

 火酒という酒を持って来たらしいが、こちらにはそれより美味しいお酒がある。

「雪ちゃんあれお願いね」

「はいはい」

 スピリタス、火がつくほどのアルコール度数だ。ショットグラスにいれて、

「乾杯」

「んぐ、カァー焼けるぞこりゃ!」

「うはぁ。これはキツイ」

 二人ともギブアップだったのでいつもの普通のお酒を出すと、美味そうに呑んでいる。

 私達はボードゲームをやりながらお菓子を食べてのんびり過ごす。


「ここが新しい領主の城か?子汚え餓鬼と爺婆しか居ないのか?」

 ワーウルフ?という連中らしい。キングが教えてくれる。

「「あ?」」

 出来上がってる二人が立ち上がり前に出ていく。

「誰がBBAだって?」

「わしゃまだまだ現役じゃ」

「酒くさ!おい、やっちまえ」

「火遁の術」

「怒りのハンマー」

 バッコーンとワーウルフ達は吹き飛ばされる。燃えたワーウルフは水を求めて彷徨っている。

「まだやるのかい?」

「わしゃまだまだ暴れ足りんぞ」

「こ、降参です。すいませんでした」

「水遁の術」

 燃えたワーウルフに水をかけてやる。


 お菊さんが私を呼ぶと、

「こちらにいるのがここの新領主だ!何かあれば我らが出てくると思え!」

「はいぃ!!!」

 ワーウルフが傘下にはいった。

 キングも顔を出していたようだ。


「ふー、飲み直しじゃな」

「だね」

 二人はまたソファーに座って飲み出した。

 私達は唖然としていたが、梅吉からすぐに元のボードゲームをやるように勧められてやっている。梅吉が負けてるからな。


 でも、あんな仲間がいればここもそんなに悪くない。


「おりゃ」

「とう」

 また桜ちゃんが来て特訓している。

 ハス爺は二日酔いでダウンしているので、ヒーリルも一緒だ。

「流石獣人ね!スピードでは負けるわ」

「いやいや、パワーは桜ちゃんに負ける」

 二人ともいい勝負していると思うが、なかなか決着がつかない。

 私は黒の力を使いこなすためにキングに教えてもらっている。

「ゆっくり自分の中にある黒を意識するんじゃ」

「はい」

“ブワァ”

「そう、その調子だ。それを持続させてみるんじゃ」

「うん」

 汗をかきながらなんとか形になって来た。

「ではそれを槍に見立ててみろ」

「はい!」

「お茶の時“シャキーン”」

 お菊さんの目の前で槍は止まる。

「あ、お菊さん」

「も、もうそこまで使えるようになってるの?」

「雪は筋がいいからな」

 キングが褒めてくれている。嬉しい。

「ま、まぁ、それよりお茶の時間にしましょ」

「はーい」

 今日はアップルパイと紅茶にした。

「美味え」

「上品な味」

「りんごがこうなるとはなぁ」

 みんな喜んでくれていいのだが、なぜかハス爺だけは獄激辛に挑戦している。

「は、はふ、から、あつ」

 汗をかいてまた飲むつもりだ。

 

 お風呂はお菊さんが沸かしてくれるから毎日入りたい放題だ。訓練の後は絶対いれてくれる。

「お風呂お風呂!」

 シャンプーもリンスもコンディショナーもリュックから出してあるから外だと思えないんだよね。

「ふぅー、これで電気が使えたらなぁ」

 まぁないものねだりしてもしょうがないけど、リュックからコンセントとか出て来ないかな?

 あとで試してみよっと。


 お風呂上がりにリュックにコンセントを出すように願うと、出て来た!ほんとになんでも出てくるのね。

 ドライヤーも出して髪を乾かす。

 久しぶりにサラサラヘアになったわ!


 みんなにも試してほしいから桜ちゃんとヒーリルちゃんにも試してもらったら二人とも大喜びだった。さすがにコンセントは上げられないからシャンプーセットは渡しておいた。


「いい匂いだなぁ」

「本当だ」

「女の子の匂いを嗅ぐんじゃありません」

 お菊さんに怒られて逃げる三兄弟。

 ハス爺さんはいつまでここに入れるのかな?

「まぁ、楽しそうだからいいけどね」


 あ。バイクとか出せないかな?

 リュックに手を突っ込んでバイクを願うと出て来たのはスクーター。

 これなら私も乗れる。免許はとってあるから。

「えへへ、かわいいスクーターだ」

「えぇ!俺のより新しいバイクだ!」

「いいでしょう?乗りたい?」

「乗りたい!」

「じゃあしょうがないなぁ」

「やった!」

 梅吉がエンジンをかけると“タッタッタッ”と音からして違う。

「おおっ!静かだ!ちょっと乗ってくる」

「ブイィィィィィィン」

 と乗っていってしまった。

 まぁ、また出せばいいか。


 梅吉が帰って来たのは夜になってからだった。

「すげぇ、ライトがつくぜあれ!」

「あのバイクあげるから大事にしてよね?」

「本当か?ありがとー!」

 抱きつこうとするので避けるとハス爺に抱きついていた。

「なんじゃワレ!気色悪いことすな!」

「俺だってハス爺なんかに抱きつきたくないわい!」

 また喧嘩してる。


 何が楽しいのやら。


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