第2話 掃除


「ふぁ!」

「よく寝てたな」

 黒ライオンはもう起きていた。

「おはよう、気持ちよさそうな毛並みだったからつい」

「まぁ良い」

 あれ?梅吉は?

「梅吉は飯を調達しに行っている」

 リュックから出せるけど、こっちのご飯も気になるのよね。


「海沿いだからマーマンしかいなかったよ」

 三体もの半魚人を狩ってきた?食べるのそれ?

「一人一匹づつなぁ」

「食えるか!てか食ってるし!」

「鱗が邪魔で食いづらいんだけどな!」

「好き嫌いはいかんぞ?」

 私の前にも首の骨の折れたマーマンが一匹。

「おぇっ!」

 食えるわけがない。

「…誰か食べて」

「そうか?んじゃワシが」

“バリボリバリ”

「お嬢は食えないのか?」

「食えるか!人型の魚なんて!」

「そうなのか」

 リュックからサンドイッチを出して食べる。

 普通はこう言うのがいい。

「うん、これなら食べれる」

「パン!」

 梅吉が反応する。

「食べる?」

「食う!」

「ワシも」

 三人でパンを食べる。

「こりゃ美味いなぁ」

「美味いぃー」

「食べ物は私が出すから」

 あんなもの食べさせられたらお腹壊しちゃうよ。グロいし怖いし汚いし。 

 

「もうあんなの取ってこないでよ」

「うん、ま、それじゃ俺はいくぜ」

「は?どこに?」

「家に帰るんどけど?」

「家あるの?」

「どんだけだよ!俺っちにも家くらいあるさ!弟二人が腹すかしてるからな!」

 へー、兄弟がいるんだ。

「パン持って行ってあげなよ」

「いいのか?ヤフゥー」


 何でも出てくるリュックにしといて良かった。パンを持たせた梅吉は嬉しそうにバイクに乗って帰って行った。


「お前は帰らないのか?」

「私一人でどうにかなると思う?」

 こんな荒れ果てた土地でどうやって過ごせってのよ!

「まぁ無理じゃな」

「でしょ?それにしても汚いわね!とりあえず掃除ね」

 リュックから掃除道具を出して掃除をし始める。掃き掃除した後にモップで洗って行く。

「少しは手伝いなさいよ」

「いやじゃ、ワシはこのままでいい」

「んとにもう!」

 世話のかかるライオンなんだから。

「ここ水は出るの?」

「それならそこに蛇口があるじゃろ」

「ならあなたも洗うわよ!」


「いやじゃー!いやじゃって!」

「ほーれほれ!水浴び気持ちいいでしょ!」

 リュックからホースを出すと蛇口に繋いで黒ライオンを水浸しにする。

「………酷いもんじゃ」

「さぁ洗うわよ」

「なんじゃ終わりじゃないのか?」

 リュックからノミ取り用シャンプーアンドリンスを取って洗って行くと。

「おう、そこそこ、そこが気持ちええのぉ」

 ワッシャワッシャと洗って行くと汚れがひどい。もう一度水洗いをして洗って行く。

「おほほー、そこじゃそこじゃ!」

「うっさいなぁ!大きいんだから少しは大人しくしてなさいよ」


 その後は外でブルブルしてもらい、外にいてもらう。自然乾燥だ。

 黒ライオンが横たわってた場所も汚いので汚れを落とす。

「掃除終わりっと!」


 ピカピカとはいはないまでもなんとか綺麗になった!ふぅ、これでゆっくりできる。

「乾いたら中に入っていいわよ」

「こんなんなりましたけど」

 ボンバーヘッドとはまさにこのことだった。櫛を通してなかったからボンバってる。

「分かった、ブラシをしてあげる!」

 リュックからブラシを取り出して黒ライオンをブラッシングする。なかなか頑固なタテガミは軽くほぐしながら毛流れを作って行く。本当に世話が焼けるんだから。


「出来たわよ!立派になったじゃない!」

「我はもとより立派じゃぞ!しかし、気持ちよかったので許す」


 気持ちよかったんかい!


「それにしても部屋が綺麗だといいもんじゃな」

「でしょ?汚すぎたのよ」

 うっとりしている黒ライオンは機嫌が良さそうだ。私も汚れたのでシャワーを浴びる。

「冷た!もー、シャワールームくらいあればいいのに!」

 下着姿でシャワーを浴びてバスタオルで拭いて下着を替えるとハーフパンツにチュニックを着て中に入る。

 “モフ”

 と黒ライオンに包まれれば冷えた体もあったかくなる。

「人間がワシに懐くとはの」

「懐いてないっ!ってか黒ライオンの名前は?」

「ワシはキングと呼ばれておった」

「キングね。黒ライオンって呼びにくかったのよ」

 ふかふかのキングに寄りかかりながらキングと喋る。

 でも不思議よね、人がいなくなったのに人の言葉が喋れるなんて。

「人の言葉はどこで覚えたの?」

「さぁ、何処で覚えたかな?わしも長く生きてるからなぁ」

「そうなんだ、梅吉達も人の言葉をはなすよね」

 梅吉は人間に似ているが少し違うような。

「ワシらはダンジョンを追い出されたからのぉ、地球と言う星に順応したんじゃろ」

「人間がダンジョンを独り占めしたの?」

「そう言うことじゃ、天災がすごくてのぉ、いまは落ち着いておるがあの時はすごかった」

 遠い目をしているキングはとても切なそうだった。

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