第33話 ターニングポイント


「ただいまー」

「あら雄一。まだ15時なのに早かったわね」

「ああ」


 美波と遥の二人と映画を観た後、そのまま駅で解散した俺は、どこにも寄り道することなく、すぐに家に帰ってきた。

 映画の後に美波はお茶したいと駄々を捏ねて来たが、無視してその場で解散にした。


 せっかくの休日だったのに、かなり疲れてしまった。

 西条から「女の子を誘え」と言われて渡された映画のチケットだったけど、なんだかんだで女子と映画を観たことには違いないし、これなら西条から馬鹿にされないで済みそうだ。


「疲れたけど……なかなか楽しかったな」


 正直、あの3姉妹の中で遥と一緒に行くことを決めたのは正解だったと思う。

 もし宮子だったら映画を見る前にアダルトショップに誘われたり、あと逆セクハラばかりで話にならなかったかもしれないし、美波だったらトイレトイレトイレで大変だったかもしれない。

 それに、遥の姉としての一面も見れた。

 今にも催しそうな美波の気持ちを察して、あの行動ができるのは、姉として流石だと思った。

 下手したら宮子なんかよりも長女っぽいし、遥の方が宮子よりしっかりしてるんだよな……。


「ん?」


 ちょうど遥のことを考えていたら、遥からlimeが入った。


『遥:今日も楽しかったわ! クレープの写真も送るわね!』


 続け様に遥からクレープ屋に行った時、二人で自撮りした写真が何枚か送られてきた。

 平日だけじゃなく、休日まであの三姉妹と過ごして……。


「最近、あの三姉妹に振り回されすぎだろ俺」


 ここ数日を振り返ると、ずっとあの3人が俺の日常に入り込んでいた。

 美波とバッティングセンターに行ったり、遥とは映画や喫茶店、宮子は……砂浜。

 心の中では邪魔で仕方ないと思いながらも、俺も付き合ってしまっている時点で同類なのかもしれないが……。


「そうだ……宮子は今日、どうしてたんだ?」


 美波も遥も出かけているなら、宮子はマンションで一人だったんだよな?

 もしあの二人から映画のことを自慢されたら、きっとあいつは嫉妬で月曜日に俺のサドルどころか自転車ごと盗みかねない。

 それは普通に、いやかなり困る。


「はぁ……宮子めんどくせぇ」


 俺は自分の部屋で外着からすぐに部屋着に着替えてベッドに身体を投げた。


 宮子にlimeして、上手いこと機嫌取るしかないよな。


『雄一:宮子、ごめん』


 何から話せばいいのか分からず、俺は謝罪から口にしてしまった。


『宮子:ごめんって何。わたしだけ除け者にしたこと? 酷いよ雄一くん』


 案の定、怒っていたようだ。


『宮子:明後日、自分の机があると思わない方がいいよ。朝一番で雄一くんの机を盗んで一生わたしの部屋に置くから』


 じ、自転車どころか机かよ……普通に犯罪なんだが。


『雄一:悪いとは思ってる。美波がお前を出し抜くために計画したみたいなんだ。だから、許して欲しい』

『宮子:え、今なんでもするって言った?』


「言ってねぇよッ!」


『宮子:ならさ、明日は日曜日だし、わたしたちのお部屋に来ない? これなら美波や遥もいるし、みんな平等でしょ?』


 三姉妹のマンションの部屋?

 宮子にしてはやけに潔いというか……逆に怪しいというか。


『宮子:それとも雄一くんはわたしと二人きりで24時間ホテルデートがいいのかな? もちろんゴム無しでいいよ?』

『雄一:明日10時ごろにお前らのマンション行く。二人にも伝えておけ』

『宮子:もー! 即レスつらたん〜!』


 宮子は何を考えているのか分からない。

 昨日、俺のことが好きだと言って来たが、こうして姉妹みんなで俺と遊ぶことを提案してきたわけで。

 普通なら二人でデートとか要求すると思うが……(俺はしたくないけど)。


「俺のことが好き……か」


 美波は俺のこと好きじゃないと言っていたし、遥も違うと言っていた。

 でも宮子だって、あの妹たちへの対抗心で俺のことが好きと言い張ってるだけだ。


「じゃあ、あの3人はなんで俺に絡んでくるんだよ……」


 美波も遥も、過去に俺のことをイジメてないって言ってるが、俺にとっては嫌な思い出ばかりだ。

 でも昨日、宮子が言っていたように、あいつらに絡まれていなかったら、俺はずっと独りぼっちで、今も一人だったかもしれない……。


「認めたくないけど、俺はアイツらにイジメられてたから、一人じゃなかったのかも……しれない」


 感謝は絶対にしたくない。

 お礼も言うつもりはない。


 ただ、俺は今の美波、遥、宮子なら、普通に接することができる。


 俺が変わったのと同じで、アイツらも変わったんだもんな。


「いつまでも過去のことをネチネチ考えるのは……よくない、かも……な」


 今日の疲れがドッと来て、俺はそのままベッドで眠った。

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