6章 三姉妹を食べ放題(意味深)
第31話 美波の本音
「雄一はあたしのポップコーン食べるの!」
「ダメ、私の」
「そんなのどうでもいいだろ! それよりもう映画始まるから黙れよ」
「「むぅ…………」」
もう少しで映画が始まるってのに、いつまで経っても騒がしい姉妹。
喧嘩する美波と遥を黙らせると、俺は大きくため息をつく。
たかがポップコーンで喧嘩とか、ほんとくだらない……。
なんか昔もこんなことあったような。
確かあれは小学生の給食の時のこと。
遥が自分の苦手な米を俺に食べさせようと持ってきたことがあって、それに張り合うように美波も俺に自分の米を食わせようとしてきた。
結局あの時はどっちが俺に自分の米を食わせるかという、くだらなすぎてあくびが出るほどの喧嘩を始めたのだが、最終的に先生が仲裁に入るくらいの事態にまで発展したんだっけ。
米嫌いの遥はまだしも、大食いの美波がなぜ俺に自分の食糧を与えたのか理解に苦しむが、今目の前で起きている状況はあの時の事象とよく似ている。
あの頃と違うのは白米がポップコーンになったというしょうもない違いだけ。
昔も今も結局俺はこいつらにとっては"おもちゃ"の取り合いと同じ感覚なのだろう。
俺を都合よくおもちゃにして、張り合いの道具として使ってるのがムカつく。
俺はお前らの遊び道具じゃないんだぞ。
「分かった。お前たちどっちのポップコーンも食べるからそれで我慢しろ」
「なら、あーん」
美波はすぐに自分のポップコーンに手を入れると、ひとつまみして右から俺の頬にポップコーンをぐりぐりと押し付けてくる。
「ちょっ! ずるいわよ」
張り合うように遥もポップコーンを一つ手に取ると左から俺の頬に押し付けてきた。
「た、食べるから! そのポップコーンぐりぐりするのやめろ!」
二人を落ち着かせて、俺は交互に両隣の二人からポップコーンを口に運んでもらう。
「ユウ、あーん」
「お、おう」
「雄一、今度はこっちから、あーん」
「ああ」
マジでなんだこれ……。
親鳥2羽に過保護な世話される雛鳥みたいな構図。
「なんだよあの男……」
「見せつけやがって」
「あんな美少女二人と……羨ま……」
後ろの席の男性客たちからの嫉妬の視線がかなり痛い。
俺もこんなことやりたくてやってるわけじゃないと分かってくれ。頼むから。
この雛鳥状態はポップコーンが終わるまで続くのだった。
✳︎✳︎
結局、映画が始まる前にポップコーンがなくなり、二人は満足した顔で自分の飲み物を口にしていた。
さっきの餌やり会は一体何だったのか。
理解に苦しむな、まったく……。
スクリーンは映画の番宣が始まり、やっと始まる雰囲気に。
さてと、やっと映画に集中でき——。
そう思った瞬間、右隣の美波が俺の肩をグイッと引っ張った。
「今度は何だよ」
「ユウ、私トイレ行きたい」
「は?」
「も、漏れそう」
「んなの一人で行きなさいよ! 子供じゃないんだから」
「ユウが一緒じゃないとトイレ行かない。ここで漏らす」
「あ、あんたね……!」
美波のワガママにイラつく遥。
こればっかりは遥と同じ気持ちになってる俺だが……このまま美波が聞き分け良く引くとも思えないし。
「はぁ……分かった。トイレについていけばいいんだろ」
「ちょ、雄一⁈」
「まだ番宣だし映画が始まるまでは時間がまだあるから。それに、ここで漏らされるのは普通に困る」
俺は背中を丸めながら美波と一緒に席を立つとスクリーンを後にした。
✳︎✳︎
女子トイレの前には軽く列ができていたが、美波は並ばない。
「お前、トイレ行きたいってのはどうせ嘘だろ」
「……バレた?」
「むしろバレないと思ったのかよ」
頭が良い美波が映画の前にトイレに行きたくなるわけないし、あんなワガママがガチならこいつは幼稚園児か何かだ。
「目的はなんだ」
「…………二人で抜け出したい」
「ダメだ」
俺は即答する。
まぁどうせそんなことだとは思ったが。
「遥が可哀想だって思わないのかよ」
「思わない」
「……お前、冷たいんだな」
「遥姉さんが悪い。遥姉さんは昔から欲しいものは全部独り占めして私に貸してくれない」
美波は唇を尖らせながらいじけて言った。
ったく……子供かよ。
「俺をモノ扱いすんな」
「ユウは遥姉さんのモノじゃない。私の友達。つまり私のモノ」
「どんな理屈だ! モノ扱いするなら友達やめるぞ」
「やだ。ユウは私の友達。二人で抜け出す」
「抜け出さない。ほら、戻るぞ」
俺が戻ろうとすると、美波は俺の袖を引っ張る。
「なんだよ。ワガママなら」
「……ごめん。戻るけど」
「ん?」
「と、トイレに行きたいってのは、本音」
「は、は? まさかお前!」
「お、おしっこもれちゃう」
さ、先に言えよぉぉおおおおお!!!
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