第29話 一方その頃、宮子は……
「なんで……お前らは俺なんかと観たいんだよ」
率直な質問を投げかけると、二人は目を見合わせる。
俺から見て右にある席に座る美波は額にシワを寄せ、俺と一緒に立っていた遥は、気まずそうに俺の左側にある席に座った。
「「…………」」
「何で二人して黙りこくってんだ、話せよ」
「…………」
「もしかしてまた俺のことイジメる為に三姉妹で何か画策してんのか?」
「それはない。もしユウをイジメるために何かするとしても、遥姉さんみたいな胸も頭もない人とは組まない」
「ハァ!? こっちから願い下げよ! アンタこそ、無駄に乳がデカいだけの口下手女じゃない!」
興奮した遥が俺を乗り越えて右に座る美波に掴み掛かろうとするので、俺は遥の肩を掴んで宥める。
「落ち着けって。お、お前ら、もう直ぐ消灯だし喧嘩は」
「ユウが悪い。チケット……破るから」
「は、はあ?」
「ユウなら……余った一枚で私を誘ってくれると思ってたから」
美波は珍しくしょんぼりした顔を浮かべ、いつものクールフェイスはそこになかった。
「遥姉さんのことは嫌いだけど、ユウが誘ってくれるなら我慢して3人で行った。でもユウは……遥姉さんと二人で行くのを選んだ」
「なによそれ、そもそもチケット要らないって言ったのはアンタじゃない! あたしに友達いないの分かってイジワル言ったのもアンタなのに!」
遥がそう言うと、美波は口を開かなくなる。
「こればっかりは遥の言う通りだろ。あの時美波と宮子は遥をイジメるように、チケットを遥に押しつけたんだから、今さらそんなこと言うのは虫が良すぎるし」
「……そうやってユウは、遥姉さんばっかり……」
美波はいじけたようにそう言って、俺の右腕に抱きついて……っんんんん!?
ぽよんとした二つの果実が俺の腕を挟んで離さない。
見た目からしてこの胸が超高校級なのは間違いないし、自転車の時にも当たったことがあったが……やっぱ柔らかい、な。
「ちょっと! そうやって雄一に色仕掛けするのやめなさいよ! この変態!」
「この席は私が自腹で買った。だから何をしても文句ない」
「いや、あるだろ……」
「……まんざらでもないくせに」
「何がだよ」
「雄一も変態!」
「……はぁ。もう疲れた」
美波に右腕を抱きつかれたまま、俺は左手でポップコーンとドリンクを飲む。
「雄一も雄一で、抱きつかれてるのに慣れてんじゃないわよ」
「だってこいつの場合、離せって言っても離さないし……もう映画始まるんだから仕方ないだろ」
俺がそう説明すると、遥はムスッとした顔から少し恥じらいの色を顔に浮かべる。
「み、美波が右腕なら……あたしは」
「ん?」
「アンタの左腕に、抱きついてやってもいいけど?」
「ポップコーン食べれなくなるし、それはやめてくれ」
「なんでよ!」
遥は歯をキリキリしながら今にも噛みつきそうな怒り顔で、美波を睨んだ。
美波といい遥といい、腕に抱きついて何がいいんだ?
この姉妹は抱きついていないと映画観れないのか?
……ん、待て。姉妹といえば。
「美波。宮子は何してんだ?」
「宮子姉さん? あぁ……宮子姉さんならここに私たちがいることも知らない。私は一人で黙って来たから」
「黙って来たって……」
いくらあの(ど変態)宮子とはいえ、美波や遥と映画観にきてるのに宮子だけいないのは仲間はずれみたいで可哀想に思える。
寝込みを襲ってくるヤバいヤツとはいえ、宮子も一応女の子だし……今日俺たちが遊んだことを自慢げにこの二人から言われたら、さすがにショックを受けるかもな。
本当は嫌だけど……今度何かしらで埋め合わせする、か。
✳︎✳︎
美波ったら、わたしを出し抜いたと思い込んじゃって……かわいい所あるわよね。
美波は昨日の夜、わたしに向かって勝ち誇った顔をしていたけど、真の強者はわたし。
美波は遥に映画のチケットを委ねることで、遥を使って雄一くんを映画デートに連れ込み、美波本人もそのデートに参加して雄一くんとデートするという計画があったと思う。
でもその過程において、盲点が一つあったわね。
わたしは一人、とある家に向かい、インターホンを押す。
「おっじゃましまーす」
「あーらー宮子ちゃん、どうしたの? もしかして忘れ物かしら?」
「はいっ、そうでーす!」
雄一くんのお家が、が・ら・あ・きっ♡
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