第28話 修羅場ってるぅ?
映画の予告すら始まっていない暗くなる前の8番スクリーン。
そんなスクリーンにポップコーンとドリンクを持って入ってきた俺たちを待っていたのは、ハンチング帽を深く被ったショートヘアで爆乳のホットパンツ女子。
こ、こんなことがあっていいのか。
ここに来るまで、やけに誰からか視線を感じたと思っていたら……まさかその張本人が……ヤツだったなんて。
「ヘローヘロー、ユウ。ポップコーン食べてるぅー?」
そう、ハンチング帽を被った爆乳ムチムチホットパンツ野郎の正体は——美波だった。
み、美波が……なぜ、ここに。
遥が言うには、美波のスマホは家にあったはず……それなのに。
「ちょっと美波っ! なんでアンタが映画館に……! しかも、なんであたしたちの隣の席に平然と座ってんのよ!」
「遥姉さん、このチケットを見つけたの誰だっけ?」
「そ、それは……アンタだったわね」
美波はハンチング帽を取りながら、某少年探偵のごとく淡々と話し始めた。
「昨日、玄関前で遥姉さんにチケットを押し付けたあの時からこの計画は頭の中にあった。ユウと遥姉さんを置いていけば、絶対二人は映画の約束をするっていう確証があったから」
何の根拠があって確証があったのかは知らないが、美波は自信満々に語り始めた。
「実はあの後、私は宮子姉さんと部屋に戻るフリをして、一人2階の窓から玄関前の二人の様子を見ていた。まず間違いなく優しいユウは遥姉さんの味方になるし、映画のチケットも翌日に迫っていたから二人が行くのはほぼ間違いない。
「じゃあなによ、あたしたちが映画に行くのをアシストしたとか言いたいの?」
「ううん、違う。私の計画は二人が映画に行くと決まった後に余った一枚を貰って、宮子姉さんをハブせにすること」
美波、容赦ないな。
美波は宮子のこと嫌いなのか……?
「そしたらユウがチケットを破って」
「お前の計画はおじゃんになったろ? なのになんで自腹切ってまでしてここに来たんだよ」
「むしろあの様子を見た私は、とある妙案を思いついたの」
「それが……コレってわけか?」
「残りの一枚で私を誘ってくれると思ってたのに……まさか破るなんて」
美波は「はぁ」とため息混じりにやれやれと肩をすくめる。
「つまりお前は、破られたEの12番席のチケットとは反対にあるEの15番席のチケットを買ったってことか?」
「ユウと遥姉さんが隣に座るなら12か13、13か14の連番になる。破った一枚が12という確証はなかったから、最初は11番を買おうと思ったけど……たまたまその日のラッキーナンバーが15で、そのまま15変えたのが功を奏した。そして私は——運命に勝った」
今世紀最大のドヤ顔を披露する美波。
う、うぜぇ……。
「アンタ、スマホはどうしたのよ」
「家にある」
「じゃあ、さっきの返信はどうやって」
「スマートウォッチの返信機能を使った」
そ、そうか! 美波はスマートウォッチで……!
スマートウォッチからlimeに返信することは可能。
美波が『後で返信します』なんてやけに堅苦しい言葉遣いだったのに違和感があったが、スマートウォッチの返信機能は定型文しかないからだったのか。
「今日は雄一とあたしが二人で映画に来たのに……じゃ、邪魔しないでよ!」
「…………」
「な、何か言いなさいよ!」
「ユウは遥姉さんより私の方が好きだから。本当は私と映画行きたいけど、遥姉さんが可哀想だから仕方なく行ってあげてるだけ」
「は、はあ!?」
「お、おい美波、何を適当な」
「雄一……どっちなのよ」
「は?」
「あたしか美波、どっちと観たいかって聞いてんのよ」
遥の目元に少し涙が浮かんで見えた。
「ユウ、さっさと答えて」
「は、でも、それは」
「雄一!」
「お、おい」
「「どっちなの(よ!)」」
どうして俺、元イジメっ子どもと修羅場になってんだよ……!
今から観る映画よりもドロドロの様相を呈していたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます