第27話 そこにいたのは悪魔の囁き


 俺は遥がUFOキャッチャーで乱獲した景品を両手に持たされる。

 遥は勉強ができない代わりに謎な特技が多いな。

 さっきやってた音ゲーはプロ並みだし、UFOキャッチャーだって、なんかテクニックを知ってるらしく、ものの数回で落としていた。

 まあ、全てゲーセンでしか披露できないという点を除けば、立派な特技として自慢できるのかもしれないが……ゲーセン限定って致命的すぎるような。


 ゲーセンへの寄り道が終わると、俺たちは今日の本命である3階にある映画館まで来た。


「映画、楽しみね? あたし久しぶりに映画館に来たかも」

「そうなのか? 東京なんてどこにでも映画館があるイメージだから意外だな」

「映画館はあるかもだけど、観たい映画があまりないのよねぇ。あたしテレビとかあんま観ないからドラマの映画化とか、アニメの映画化とか興味ないっていうか。ショート動画なら山ほど見るんだけどー」


 Z世代の要素の塊みたいなヤツだな。

 遥は映画の前にゲーセンで遊び倒してかなり機嫌が良さそうだった。

 機嫌がいい時の遥は、普通に女子って感じがする。(失礼極まりないが)


「景品をアンタに持たせちゃってるし、このアタシがポップコーンとドリンク買ってあげるわ」

「いいのか? さっきはクレープも奢ってもらったのに」

「いいのいいの。ほら、ドリンクは何がいい?」

「じゃあ……俺はコーラかな」

「ちょっと! アタシがコーラにするんだからアンタはメロンソーダにしなさいよ」

「ったく、相変わらず理不尽だなお前! ていうか、ドリンクくらい同じでもいいよな? どうして回し飲みする前提になってんだよ」

「あっ……! そっか」

「何がそっかなんだよ」


 謎なことばかり呟く遥。


「ご、ごめん雄一。ついで」

「昔の癖?」

「あたしたち、仲良かった頃はよく3人で飲み物も食べ物も違うものにして交換し合ってたから。その思考になってた……だからごめん」

「べ、別にそこまで謝る必要はないが」


 さっきまでの笑顔から急にしんみりする遥。

 事情はよく知らないが、そういやあいつらって仲悪くなったらしいな。

 まぁその割には昨日俺の家で仲良く寝てたんだが……(一人を除いて)。


 仲が悪くなったと言ってても、遥にとっては姉妹でシェアするのが当たり前になってるのは、微笑ましいというか……それは悪いことではないように思える。


「……ったく。しゃーねぇな」

「雄一?」

「俺はメロンソーダでいいよ。でもその代わりお前のコーラ少し分けろよ」

「は? あたしとシェアするってこと? でもそれ、間接キスとか」

「昔からあんだけ俺にハグとかさせといて今更間接キスとか気になるのか?」


「それは……じゃ、じゃあ! あたしも……」

「ん?」


「あたしも、アンタのメロンソーダ飲むから」


「……分かったよ。だから注文頼んだぞ」

「うんっ」


 遥はまた笑顔に戻り、金色のツインテを揺らしながら、小走りでレジの方へ向かった。

 さてと、待ってる間に俺はチケットを出しておこうか——って、ん?


 俺が入場口の方を見た時、どこかで見覚えのある背中が目に入った。


「あの女子……」


 背は遥と同じぐらいだが、Tシャツに凹凸が生まれる胸元や、ホットパンツから見えるその太ももは程よくムチッとしており、スタイルの良さを窺わせる。


 室内なのにハンチング帽を不自然に深く被ってて、どこか異様な感じがするな。

 彼女はチケットの確認が終わると逃げるように奥へと進んで行った。


 あれはまさか美波と宮子の二人のうちのどちらか……ショートの髪型からして、美波……?


「雄一、かってきたわよ」

「…………」

「雄一? おーい」

「なあ遥……二人の位置情報を今から調べられるか?」

「できるけど……アンタって心配症ね? そ、そんなにあたしと二人きりがいいの?」

「いいから早く」

「わ、分かったわよ」


 遥はポップコーンとドリンクのトレーを左手に持ち直し、右手でスマホを操作する。


「二人とも家にいるみたいよ?」

「試しに美波と宮子にlimeしてみてくれ。買ってきて欲しいものあるか? とか適当に」

「りょ、了解」


 遥は嫌そうな顔をしながらも、俺の言う通り二人にlimeした。


 もしあいつらが位置情報を誤魔化すためにスマホを家に置いたままなら、limeには反応できないはず。

 そう思っていたのだが……。


『美波:後で返信します』

『宮子:男性モノのパンツ♡』


 約一名おかしいのが居たが、ちゃんと返事が送られてきた。


 やっぱ俺の思い過ごしだったのか……?


「ちゃんと返信来たわよ。スマホは家にあるし、雄一が心配しすぎなのよ」

「どうやらそうみたいだな」

「さっさと入場するわよー、早くしないと予告が終わっちゃうから」

「いや予告なんてどうでもいいだろ」


 そんなことを話しながら俺たちはチケットを見せて入場する。


「あたしたちの見る映画は8番スクリーンね」


 俺と遥は8番スクリーンまで移動し、席に座ろうと思った——のだが。


「「……え?」」


 そこには。


「ヘローヘローユウ? ポップコーン、食べてるー?」


 ハンチング帽でショートヘアを隠していた美波が俺たちの席の隣に座っていたのだ……。



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