第26話 激ヤバデート03


 遥と俺は並んで歩きながら駅前から映画館へ向かう。

 映画館は、駅から徒歩10分ほどの少し離れた商業施設の中にある。


 白のブラウスと紺色のフレアスカートの遥は金髪ツインテという髪型もあってかかなり周りの視線を集める。


 まあ(赤の他人からしたら)遥の顔は可愛いし、ルックスもあの姉と妹が異常な爆乳なだけで、胸以外は文句のつけようがないし。


 ほんのちょっぴりだけど、遥の隣を彼氏っぽい距離感で歩いていると優越感がある。


 本物の彼女ができたら、きっとこんな感じなんだろうか……。


「ゆ、雄一」

「……どした遥?」

「アンタさっきからあたしのこと見過ぎじゃない?」

「へ? あー、すまん。もう見ない」

「あ、いや……」

「?」

「やっぱり、少しは見ててもいい、ケド」

「は?」


 やはり今日の遥は少しおかしい。

 おかしいのはいつものことかもしれないが、いつもはガミガミうるさいのに……服装といい喋り方といい、今日はやけに清楚な感じというか。


 遥は金髪ツインテを揺らしながら歩き、時折、俺の方を横目で見てくる。


「お前こそ、さっきからチラチラ見てきて。なんか言いたいことでもあんのかよ」

「……もし、彼氏がいたらこんな感じなんだなって」


 さっきの俺と同じこと考えてるな。

 もしかして遥も俺のこと……意識してんのか?


「べ、別に雄一を彼氏にしたいとかいう意味じゃないけど……」


 やっぱ違う、よな。

 遥は俺のこと嫌いって口癖みたいに言うし、まさかあの遥が俺のこと好きとか、あり得ねえし。


「こうやって異性と歩くのって、なんかポカポカするわね」

「そ、そう、だな。俺も今日は……ちょっと汗ばんでるかもしれない」

「……あ、アンタ! なに意識してんのよ!」

「意識なんかしてない!」

「もしかしてあたしのこと、好きになったりして?」

「それはない」

「ズバッと否定すんなバカ!」


 遥にポカポカ腕を叩かれながら歩いていると、映画館の入ってるショッピングモールが見えてきた。


「どうする? まだ上映時間まで時間あるし、どこか寄って行くか?」

「ええ! 実はこの近くに美味しいクレープのお店があるの。そこに行きたいと思って」


 へぇ、遥はちゃんと調べてきてるんだな。


「分かった行こう」


 一旦ショッピングモールから離れた俺たちは、遥が行きたいというクレープショップへ。

 クレープなんて洒落たモノ、俺は今まで食べたことがない。


「遥はクレープとかよく食べるのか?」

「ええ。東京にいた時はよくSNSで人気になってるショップに行ってたわ。ほら」


 遥は移動中のエスカレーターの上でスマホの写真フォルダを開くと、これまでに食べたスイーツの写真を俺に見せてくれた。

 どれも特徴的なスイーツで、見るからに胃もたれしそうなほど甘ったるそうな見た目をしているが、いかにも若い女子が好きそうだった。

 その写真を見ているうちに、俺は一つ気になったことがあった。


「なあ遥……なんでいつも一人なんだ?」

「えっ」


 そう、遥が見せてくれる写真は基本的に一人分だけで、周りに一緒に来てる人がいる写真はなく、スイーツを食べる自分を撮ってる写真すらも自撮りだった。


「やっぱり友達……いなかったんじゃ」

「そ! そんなのどうでもいいじゃない!」

「まさかお前……やっぱり友達が」

「あーもう! いなかったのよ! 悪い!?」

「べつに悪いとは言ってないが……」


 やっぱりこの性格じゃあっちにいる頃から苦労してたんだな。


「ほら、クレープショップあったわよ」


 ショッピングモールの周辺商業施設の一角にあった店を指差す遥。

 クレープ専門店、か……。

 店はガラス張りになったキッチンと注文カウンターが併設しており、クレープの注文を待つ時間、その工程を見れるようになっていた。


「ご注文はお決まりでしょうか」

「定番クレープ2つでっ」


 俺が財布を出そうとしたら、遥はその手を掴んでくる。


「ここはあたしに出させてよ。映画の券も貰っちゃったし、何よりここに来たいって言ったのはあたしだから」

「じゃ……じゃあお言葉に甘えて」


 遥は迷いなく注文を済ませると、支払いも済ませ、クレープが出来る過程を見るためにキッチンのガラスに張り付くように見ていた。


 遥ってこういうの好きなんだな……ちょっと意外だ。

 俺も遥の隣に並んでクレープのできる過程に目を向ける。

 クレープの生地をヘラみたいなので円状にして焼くと、ペラペラな生地をひっくり返してもう一度焼く。

 両面が焼けたら今度は半分に折りたたんで中に入れる生クリームやカスタードクリームを出して中にイチゴなどのフルーツも乗せた。

 そして半月状の生地をくるくる巻きながら、紙カップにクレープを挿して、上からさらに生クリームをドバッと投入して砂糖をまぶすと、バーナーを取り出し、クレープの頭が飴色になるまでカリッと炙っていく。

 

「すごーい! 炙ってるわよ雄一っ」


 テンションの高い遥。

 ったく、子供みたいだな。


「はい、お待たせしました」


 そのまま手渡され、俺と遥は店内でクレープを食べることに。


「なんかスプーンまで渡されたけど、どうやって食うんだこれ? かぶりついたらダメなのか?」

「当たり前じゃない、スプーンで頭のクリームを食べて、最後に生地を食べるのっ」


 よく分からないが、遥の言う通りに俺は食べてみる。

 バーナーでカリッとした一番上の砂糖部分がかなり香ばしい味わいがして、生クリームとのバランスも良い。

 クレープってもっと軽い食べ物ってイメージだったけど、中にはクリームや果実がしっかり入ってるし、ボリュームもあるんだな。


「おいひー、あ、そうだ!」


 遥は何かを思い出したように、スマホを取り出すと、自撮りで写真を撮り始める。

 また悲しい写真を……。

 そう思った時、遥は俺の方にもスマホの内カメラを向けて写真を撮ってきた。


「ちょ、おまっ」

「記念よ記念」


 俺も遥のスイーツホルダーの一部になるのかよ……なんか嫌だな。


「嫌そうな顔すんな! ほら撮るよー」


 バレてたか。


「……ん?」


 まただ。

 どこからか、視線を感じる。

 辺りを見渡しても知り合いの影はないし、気のせいだと思いたいが……やはり、見られているような。


 ✳︎✳︎


 クレープを堪能した俺たちは、その後やっとショッピングモールの中へ入ると、エスカレーターに乗る。


「映画まではまだ時間あるし……そうだな、ゲーセンでも寄るか?」

「ゲーセン——っ!?」


 なんだ? やけに食いつきいいな。


「ゲーセンで、お、音ゲーやりたいんだけどいい?」

「え、お前音ゲーとかやんの?」

「……もしかして、引いた?」

「いや、普通にすげぇと思っただけなんだが。得意なら見せてくれないか?」

「っ! い、いいわよっ! あたしのウデ見せてあげる!」


 と、自信満々な様子の遥。

 遥が音ゲーマーだったなんて意外だな。

 まぁど変態現役JKグラドルの姉やバッティングセンターでイチ●ー並みのセンター前ヒットを連発する妹がいたら、今さら音ゲーマーの金髪ツインテがいてもおかしくないか。


 ゲーセンに入ると、遥は中をぐるっと見回して、白い音ゲーの筐体を見つけた。

 よくある円状のタッチパネルを叩く音ゲーで、ズラッと横に並んだ筐体には手袋をしたガチの音ゲーマーばかりで遥みたいな女子はいなかった。


「見てなさい雄一。あたしの凄さを!」


 遥は徐に100円を入れてゲームを始めた。

 音ゲーねぇ。俺はあんまり好きじゃないんだよなぁ……。


「ん……?」


 遥のプレイを見ていると、またしても背後から謎の視線を感じ取った。

 背中を焼かれるように真っ直ぐな視線で、嫌でも感じ取れてしまったのだ。


 俺はとっさに背後を振り返る。

 するとそこにはもう、誰もいなかったのだが。


 おかしい。今、逃げるように足早に人影が消えたような……。


 まさか駅前で感じた嫌な予感は……的中している?


 でも美波や宮子の位置情報は家に——いや、そんなのサブでスマホを持っていれば普段使いのスマホを置いて外出できる。


 スマホを2台持つなんて経済力があるのは間違いなく宮子だが……。


「ちょっと雄一!」

「ん、ああ、どした」

「どしたじゃないわよ。ほらこれ。最高難度の曲でフルコンボしてやったわ! それも全部エクセレントで」


 周りでやってた音ゲーマーたちが目をかっ開いて遥の筐体を見つめている。

 よっぽど凄いのかこれ?


「褒めてくれてもいいわ? ま、こんなのあたしにかかればウォーミングアップだけど」

「お、おめでとう」

「なんでそんなテンション低いのよ!」

「いや、俺には良くわかんねぇし」

「じゃあ次行きましょ! UFOキャッチャー!」


 UFOキャッチャーて……はぁ。

 ゲーセンに来てから遥はやけにテンション高かった。



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