第25話 激ヤバデート02


 3姉妹が帰ってからは、この後遥と映画に行くこともあり俺は準備を進める。

 遥からのlimeでは、11時に隣町の駅前へ集合らしい。

 俺たちの街には大型のショッピングモールがないため、映画館に関しても隣町のショッピングモールまで行かないと無い。


 俺の家と遥たちのマンションでは最寄りの駅が違うこともあり、だから隣町の駅前に集合する話になったのだろう。

 俺は外着に着替えると、早めに家を出る。

 まだ10時前ではあるが、早く着いておくことに損はない。


 それに、俺は女子と二人っきりで出かけるのは初めてなのだ。

 例え相手が遥とは言え、そこそこ緊張はしている。

 まあ、上手いことデートに慣れた雰囲気出そう。

 遥から『雄一って女慣れしてないー』って馬鹿にされるのはムカつくからな。


 俺はスマホで遥に「もうすぐ出る」とlimeを送った。


 ✳︎✳︎


 電車に乗って待ち合わせ場所である隣町の駅前へ向かう。

 あの遥と二人っきりで遊ぶなんて……少し前までの自分では信じられない光景だ。

 昔の俺はずっと、遥のことを傍若無人な嫌なヤツだと思い込んでいた。

 自分の気に入らないことがあれば文句を言って、常に自分が一番でないと落ち着かないワガママ野郎だと。

 でもこうして高校生になってから一緒にいる時間を重ねると、昔の遥は精神的に幼かっただけだと分かる。

 今の遥はあの頃と比べるとかなり落ち着いていて、時折ツンツンして昔の影を覗かせるが、それでもマシになった。

 それに昨日の砂浜の時は……遥のおかげで宮子の口車に乗せられずに済んだ。

 もしあの時、宮子をめちゃくちゃにしていたら俺は一生宮子にその事を脅されて奴隷にでもされていたのかもしれない。

 それを考えたら、遥には感謝しかないな。


 考え事をしながら電車に揺られて20分。

 待ち合わせ時間の11時の30分前には待ち合わせ場所の駅前に到着した。

 遥はまだ、かな。

 駅前で無駄に目立つ金髪ツインテを探すが、見つからない。

 そういや遥って普段はどんな服を着るのだろうか。

 金髪ツインテにしたくらいだし、ヤンギャルっぽいイカつい見た目か?

 もしそうだとしたら、その隣を歩く俺まで変な目で見られそうだな……心底嫌なんだが。


「ゆ、雄一、さっきぶり」

「おお、はる……か」


 背後から声がして振り向くと、そこには。


「ど、どうかな……わたしの服」


 腕の出る白のブラウスに紺色のフレアスカート。

 ジーンズ生地のジャケットを羽織り、真っ白な手提げバッグを持ってその金色のストレート髪を風に靡かせる。

 完全に駅の周りの人の目を集める美少女…………え?


「ど、どうって聞いてんだけど!」


 どう、じゃねえ!

 感想の前に、一瞬誰なのか分からないくらいの美少女で、俺はたじろいてしまう。


「少しはおしゃれしてきてあげたんだから……この服の感想、言ってよ」


 遥はぶつぶつそう言うと、恥じらいながら上目遣いで俺の顔を見上げてくる。

 どうして普段はツンツンしてるお前が、そんな緊張気味なんだよ……。


「えと……なんつうか、意外だな。もっとファンキーで派手な格好してくると思ってた」

「な、なによそれ。あたしはいつもこんな感じだし……」


 いつもこんな感じなら、高校でもツインテやめて流せば良いのに。

 いつものツインテだと子供っぽく映る遥だが、今日のストレート髪だと大人な印象が強い。


「か、かわいい?」

「は?」

「は? じゃないわよ!」

「お前の方こそ『かわいい?』じゃねーよ! そこはいつものお前なら『可愛いって言いなさいよ!』だろ!」

「はぁ?」


 って、待て待て。今は駅前で言い争いをしてる場合じゃないな。


「ちゃんと、可愛いから! と、とにかく映画行くぞ」

「可愛い……ねぇ。あんたそれ、美波とかにも言ってんの?」

「言ってねえよ」


 そう答えると遥は「ふんっ」と鼻を鳴らして、先を歩き出した。


「なら良かったわね。可愛いあたしとデートできて」


 すぐ増長しやがって。

 やっぱり根っこは変わらないんだな……うっざ。


「…………ん?」


 その時だ。

 俺と遥が話していると、やけに遥の背後の方に見覚えのあるスタイルの人影がこちらを見ているような気がした。

 凝視すると、すでにその人影はなかった。

 あくまで直感だが……見られていた……?


「どうしたの雄一? さっさと行かないとポップコーン混むわよ」

「お、おう」


 一瞬だったけど、やっぱり視線を感じたような……。

 確かに遥の見た目に視線が集まるのは分かるが、遥というよりも俺を見ていたような……。

 そんなことをするのは"あの二人"くらいだと思うけど……。


「な、なあ遥。スマホで宮子と美波の二人の位置情報って分かるか?」

「美波と宮子? ああ、共有してるから分かるわよ?」

「念の為にも確認してみてくれ」

「なによ雄一ぃ、そんなにあたしと二人きりなのが大事なの?」

「今はそんなのいいから、ほら」

「はいはい」


 俺はさっさと遥に位置情報を確認するように言う。


「えーっと、二人の位置情報ならちゃんとあのマンションにいるわよ?」


 マンションに……?

 じゃあ、俺が感じたのは思い過ごしだったのか……?


「安心しなさいよ雄一。家を出る時も、宮子は筋トレしてたし、美波はゲームしてたわ」


 遥がそう言うなら、きっと気のせいか。

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