5章 デートは映画で

第24話 激ヤバデート01


「も、もうっ、雄一くんったら強引っ!」

「出てけクソ女!」

「ハァハァ、ば、罵倒してぇ、もっとー」

「この変態がっ!」

「うぅぅぅぅぅぅっ!!」


 ど変態の宮子を部屋から追い出して、俺は部屋の中を確認する。


 まずは部屋のモノが盗られていないかだ。

 あのヘンタイが盗みそうなものなんて分かりきっている。


 俺は部屋のタンスの中にある下着やアンダーシャツ類を全て確認する。

 荒らされた形跡はない……下着とかの畳み方もいつもの母さんの畳み方だし、盗まれていない。

 一応、その後金品の方もチェックしてみたが、そっちも異常は確認されなかった。


 どうやら盗みが目当てではなかったみたいだな。


「対策はあれだけ寝る前にしておいたのに、まさかこんな簡単に侵入を許すことになるなんて……」


 転がしておいたビー玉は綺麗に菓子の小箱の中へ片付けられており、ドアに貼っていたガムテープも全て燃えるゴミ箱に捨てられていた。


 一体、宮子はどうやってここまで突破して来たんだ?

 完全に密室だったはず……ん?

 俺は部屋にある唯一の窓を確認しながら考えに耽る。


「まさか、隣の空き部屋からこの部屋まで屋根を伝ってきて、そのままこの窓から侵入した……とか?」


 しかし部屋の窓にはちゃんと鍵が掛かっている。

 いや、むしろここから入ったという証拠を残さないためにも、侵入した後に鍵を閉め直したとも考えられるな。


 つまり宮子は何かしらの力で部屋の鍵を開けて侵入し、あたかも正攻法として部屋のドアから侵入したように見せかけるため、部屋のドアに貼ったガムテープを全部取った。


「宮子ならやりかねないな」


 どうしてこんなミステリー小説みたいにトリックを考察しているのかは分からないが、宮子のヤバさを再確認するには十分な考察になった。

 しかし、どうして宮子はそこまでして俺の部屋に侵入して来たんだ?


『——好き……だったから』


 昨日、宮子はそう言っていたが……。

 あいつの態度や、気持ち悪い行動からして、本当に宮子は俺のことが好き、なのか……?


「ユウ、おはよう」

「お、おお……美波」


 俺が部屋で考えに耽っていたら、ダサTを着た美波が部屋に入ってくる。

 宮子と同様、母さんが普段着ているダサTの胸元にプリントされた猫が、ダックスフンドみたいな胴長になってた。

 こりゃ、母さんはもう着れないな。


「……んー? どうしたの?」


 美波はまだしょぼしょぼしている目を擦りながら聞いてきた。

 朝に弱いタイプなのが一目で分かるくらい、その顔が語っている。


「もしかして宮子姉さん関連?」

「ああ。宮子が部屋に侵入して来たんだよ。朝起きたらベッドに」

「だろうね。宮子姉さんならやると思った」

「なら守ってくれよ」

「……ユウは、私がいないとダメなの?」

「そ、そういう意味じゃねえけど」

「…………」


 美波は寝起きの顔のまま、何も言わずに俺のズボンに手をかけると、バサっとパンツごと降ろして……っ!?!?


「お、おおおおい!!!」


 俺の"息子"が美波の眼前に出現する。

 嘘……だろ!

 同級生に俺のアレが見られるなんてっ!


「なんだ。やっぱりユウの大きさは枝豆の鞘くらい」

「み、見るなっ!」


 俺はすぐにパンツとズボンを引っ張り上げて元に戻す。


「大丈夫。ユウのお●ん●んからは宮子姉さんの唾液の臭い、しなかった」

「は、はあ?」

「匂いフェチだから分かる。流石の宮子姉さんでも、ここは刺激したらユウが起きてバレるのが分かってたみたい」


 分かったみたい、じゃねえよ。

 俺の股間の匂い嗅いでおいて、何を冷静に推理してんだこいつ。

 ん、ちょっと待て。


「あ、あのさ……こんなこと聞きたくなかったんだが、股間からは宮子の唾液が検出されなかったなら、他の場所からはするのか? 宮子の唾液の臭い」

「ちょっと嗅がせて」


 美波は俺の身体に鼻を近づけると、くんかくんかと鼻をヒクヒク動かした。


「…………ざっと首筋とおへそ、あと足裏から宮子姉さんの臭い、する」

「お、おええ……っ!」


 俺は近くにあったゴミ袋にあさイチのゲロをぶち撒けた。


 ✳︎✳︎


「「「お邪魔しましたー」」」


 制服姿の3人は、俺と母さんに見送られながら玄関で挨拶して出ていく。


 二度と来るな。クソ三姉妹が。(特に美波と宮子)


 宮子は平然と俺の部屋に不法侵入するし、美波は何の遠慮もなく米のおかわりを何度もするので、一晩で俺の家の米をほぼ一人で枯渇させた厄介者。


 もう2度とこの家の敷居は跨がせない。

 俺は心の中でイライラしながらそう思った。


 宮子と美波が先に玄関から出ていく中、遥だけは玄関で足を止めていた。


「ん、どうした遥? 忘れ物か?」

「……ちゃ、ちゃんと待ち合わせ場所、来なさいよ」


 そっか……朝のことが衝撃すぎて忘れていたが、そういえば今日は遥と映画を観に行くんだったな。


「お、おう。じゃあまた待ち合わせ場所で」


 遥は笑顔で返事して、先に出ていった二人を駆け足で追いかける。

 遥と二人で映画……か。

 こんなことするなんて、あいつらが転校してくる前までの俺だったら信じられないよな。

 俺は部屋に戻ると外着に着替えるのだった。

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