第22話 美波の思惑
「この部屋が私たちの寝床なの。荷物はそこに置いて」
「うん。ありがとう美波」
ふふっ、雄一くんと仲直りしちゃった。
これで二人と同じスタートラインにわたしも立ったわけだし、長女として美波や遥とは格が違うのを見せつけないと。
現役JKグラビアアイドル。
そのポジションにいる時点でわたしは二人より格上だけど、恋愛においてはわたしは遅れをとってしまった。
巻き返すなら、このお泊まり会を利用するのみ。
まずは……そうね、わたしの好きって気持ちも伝えちゃったし、とりあえず雄一くんの寝込みを襲って——。
そんなことを考えていると、美波がわたしのぷにっとした二の腕を握って来た。
「宮子姉さん、顔キモい」
「もお美波? お姉ちゃんにそんなこと言ったらダメでしょ?」
「……妹の恥ずかしい動画を盗撮するような人は姉じゃない」
美波ったら自転車置き場の時のことを引きずってるのね。
相変わらず無駄に記憶力はある。
「自転車置き場のアレからして、美波も雄一くんのこと好きなんでしょ?」
「そんなんじゃない」
「違う? ならなんで雄一くんに絡むの?」
「そ、それは……」
美波は口をキュッと閉じると、わたしから目を逸らした。
分が悪いと判断して口籠るなんて、やはり美波は雄一くんが絡むと自慢の頭の良さを発揮できないのかしら。
「昔の私は、ユウが嫌がってるの知ってたのに姉さんたちに流されてユウに嫌なことした。だから……償いたい。新しい関係を築きたい」
言ってることはおそらく真実。
美波はわたしたちに流されるまま、雄一くんに絡んでいた。
自主的にやっていなかったから、そんなことは知っていたけど、まさかやり直したいなんて思っているとは。
「じゃあ雄一くんと付き合いたいとか思ってないってこと?」
「……う、うん」
——嘘ね。
絶対この子も雄一くんの童貞を狙っている。
サドルにあった雄一くんのお尻の匂いで興奮している女が、狙っていないわけがない。
雄一くんのお尻の匂いで興奮するのなんて、わたし以外にいないと思っていたのに……まさか身内に同士がいるとは。
美波……あなたはわたしのことを変態扱いしてるみたいだけど、あなたも変態だという自覚を持った方がいいわ。
「ならなんで、雄一くんのサドルをくんかくんかしてたの?」
「雄一のサドルの匂いを嗅いでみたくなっただけ。ただの興味」
ただの興味って……それで許されたらサツは要らないわよッ!
「そう。ならもうこの話はおしまい。お互いにお互いの考えがあるなら、深く言及するのは野暮よね? それより美波、今夜一緒に雄一くんの部屋に」
「……ふふっ」
同志として美波に夜這いの計画を提案しようとしたら、美波がクスリと笑った。
「何がおかしいの?」
「宮子姉さん……"甘いな"と思って」
「甘い?」
「宮子姉さんが自転車置き場で私にトラップを仕掛けたように、私も"既にトラップ"を仕掛けてあるから」
普段は無表情な美波の口元がニヤニヤと笑みをこぼす。
な、なに? この余裕の笑み。
美波は遥と違って、記憶力も良いし頭も切れる。
だから何か企んでいるのかもしれないけど……理由が分からない。
「トラップ……? な、なんなの?」
「……な、い、しょ」
美波……この子は、何か隠している?
わたしの気づかないところで何かトラップを仕掛けたっていうことよね?
一体何……?
盗撮用のカメラかしら? それとも盗聴器?
雄一の部屋に行けば分かる……?
「どっちにしても、宮子姉さんの貧しい想像力じゃ、私の計画なんてわからない定期」
「美波……あまり思い上がらない方がいいわよ」
「それはどっちのことかな?」
美波の余裕の笑みがわたしには最大のプレッシャーに感じられて、頭に来る。
これだから美波は好きになれない。
彼女は昔からそう。
わたしや遥が雄一くんに勝負で勝って、イチャイチャする命令をしている時も済ました顔で自分だけはやらない。
そのくせ、わたしたちに便乗するように雄一くんとイチャイチャして。
ズル賢さと狡猾さのプロ。
それがわたしたち城田三姉妹の三女・城田美波の本性……。
「美波はさ」
「?」
「どうして雄一くんなの? わたしや遥には雄一くんを好きになるきっかけがあった。だから当時、ぼっちだった彼に近づくために勝負を挑んで半分イジメのようなことをしてでも大好きな彼とスキンシップな命令をするために尽力した。でもそもそも彼を好きになる理由がない美波がわたしたちに便乗していた理由が分からないの」
「私が、ユウを好きなきっかけ?」
「ええ。現に遥は雄一くんの慈愛に惹かれた。わたしは雄一くんの優しさ。それならあなたは雄一くんの何に惹かれたの?」
「……私は、雄一の"強さ"に惹かれた」
「強さ?」
「宮子姉さんや遥姉さんからのイジメにも屈しない強さ、二人に勝って自分の手でイジメを無くそうと勝負の誘いを断らなかった強さ、そして負けても逃げずに何度も立ち上がる強さ。ユウ……いや、雄一は、他の男子には無い根性や強さを持ってる」
普段は口数が少ない美波だけど、雄一くんの話になると饒舌に熱弁する。
なるほど……強さ、か。
確かにあの頃の雄一くんは不思議な点が一つあった。
雄一くんはあの頃のわたしたちの行為をイジメだと思っていたなら、逃げるという選択肢はあったはず。
イジメだと思うくらい、わたしたちと手を繋いだり、抱きついたりされるのが嫌だったなら、わたしたちを避けて行動すれば良かっただけの話なのに、雄一くんは逃げずにわたしたちの勝負の誘いに真っ向から戦ってきた。
わたしもずっと不思議に思っていた点だけど、まさか美波が雄一くんに惹かれた点がそれだったなんて。
「よく分かったわ、美波」
「遥姉さん……ユウのことは諦めて」
「それはこっちのセリフ。雄一くんはわたしのモノなの」
「ユウは、モノじゃ無いっ」
「いいえ。雄一くんはモノなの。わたしは雄一くんを手に入れるためにグラドルになったし、ここに引っ越すことをあの"モンスター"に提案した。それは全て、雄一くんというこの世で一つだけの宝物を手に入れるため」
「……っ」
「美波が何を仕掛けたのかしらないけど、彼に傷一つ付けたらわたしが許さないわよ」
これだけ牽制しておけば大丈夫。
それに、美波が何か企んでいるなら、こっちにだって計画は何個もある。
わたしたちは三つ子の姉妹でありライバル。
そう易々と彼を譲れないから。
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