第21話 雄一の優しさ、正直な遥
3枚の映画のチケット。
これは西条や樋口と一緒に行く予定だった映画のチケットだ。
俺の部屋の机に入れていたはずだから、美波の野郎……勝手に俺の部屋に入ったのか。ぜってぇゆるさねぇ。
「「「…………」」」
3人は玄関の前で急に黙りこくって、美波の手の中にあるチケットに目を落とす。
「……ユウ、とりあえず私は内定?」
「なんだよ内定って」
むしろお前ら全員にお祈りメール送りたいんだが。
「雄一くんお願い! もの凄いえっちなことでも何でもするからわたしも連れてって!」
「ちょっと宮子! あんたのそれはただの本望でしょ! 雄一ダメだからね」
「遥には関係ないじゃない!」
「宮子こそ、エロい行為と映画のチケットは無関係でしょ!」
遥と宮子がつかみ合いの喧嘩をおっ始める。
やっぱりこうなったか……。
こいつらどんだけ映画観に行きたいんだよ。
ちなみに、西条や樋口と観に行く予定だったこの映画は現在酷評されまくってるB級ホラー映画。
田舎町にある不気味な井戸の呪いを調査していた主人公が、井戸の中でひたすら白髪の女に襲われる映画らしい。
「お前らがそんなにその映画観たいならチケットやるよ。元々友達と行く予定が無しになったチケットだから」
「それじゃ意味ないよ雄一くん! わたしは雄一くんと観に行きたいんだもーん!」
甘ったれた口調で言う宮子。
逆にこっちは「行きたくないんだもーん」なんだが。
「雄一くんが来ないならわたし行かなーい」
「私も、ユウが来ないなら行かない。このチケットは遥姉さんに全部あげる」
「は、あたし?」
「ちょっと美波ぃ。友達いない遥にチケット3枚あげるとか性格悪いよー」
「そんなつもりない。ただ、いつも遥姉さんはユウのこと嫌いって言ってるから、ユウとか関係なく映画観に行きたいのかなって思っただけ」
「そ、それは……」
遥は困り顔になりながら、美波から押し付けられた映画のチケットを手に取る。
遥に友達がいないなんて分かってるのに……こいつらやっぱ仲悪いな。
「…………」
遥は難しい顔で黙ってしまった。
この爆乳2人は遥の弱い所を知った上でイジワルしてるんだな。
確かに遥は性格に難ありで友達もいないし、偏食家だからほっそりしてるから、この二人からマウントを取られるのは仕方ないのかもしれないが。
「い、いいわよ。貰ってやるわよ。別にあたしは雄一とか関係ないし? と、友達だって……いるし!」
強がってるのが誰でも分かる。
ほんと……見てらんないな。
「じゃあわたしは先に戻ってるねー」
「宮子姉さん。部屋まで案内する」
宮子と美波は先に部屋に戻って行った。
残された俺と遥は微妙な空気の中で立ち尽くしていた。
「今からあの二人に謝って一緒に行ってもらえよ」
「う、うるさい」
「はぁ……やっぱ相変わらずだな。お前」
俺がそう言うと、遥は目にジワっと涙を浮かべた。
泣くくらいなら強がらなければいいのに。
「ったく、仕方ないな」
いくら遥とはいえ、少し可哀想に思えた。
「チケット。一枚貰っていいか?」
「は? アンタさっきは要らないって」
「いいから明日、一緒に映画行くぞ。あの二人に馬鹿にされてそのままぼっちで映画行くのは悔しいだろ?」
「で、でも……余った一枚は?」
俺は遥の手の中にあったチケットを2枚取り返し、そのうちの一枚をビリビリに破る。
「ちょっ! 何やってんのよ!」
「これでチケットは2枚だ。文句あるか?」
「も、勿体無いじゃない! アンタが来るなら宮子か美波も来たかもしれないのに!」
「でもこれで残り一枚のことは心配しなくて良くなった。アイツらには内緒で、俺たち二人で行けばいいじゃんか」
「えっ……」
遥はキョトンとしながら瞬きを繰り返す。
何か驚くことでもあったか?
俺は遥が残り一枚のことが心配にならないようにしたんだが。
「あ、アンタ……あたしと映画デートしたかったの?」
「違うが」
「……つ、強がらなくていいわよ。こんなに可愛いあたしとデートしたいなんて普通だし!」
「だから違う」
否定すると、遥はやっと笑顔を取り戻した。
やっぱこいつ……笑ってる時は普通に可愛いんだよな。
「ありがと雄一。あたしのこと気遣ってくれたんでしょ?」
「別に、そんなんじゃ」
「アンタのそういう所……昔から好き、だから」
「……好き?」
「あ、明日は映画館集合! 遅刻するんじゃないわよ!」
遥は早口で言って玄関のドアを荒々しく開けると、さっさと家に入って行った。
あの遥が好き、とか言うなんて。
遥が、俺のこと……。
「いやいや、今はそんなことよりも——」
俺は玄関に入って、3人の靴を見る。
喧嘩が済んだなら、お前らもう帰れよ。
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