第19話 宮子と雄一すれ違う想い(前編)


 宮子が接近してきている……だと?


「でも、遥や美波は位置情報を切ったって言ってたよな?」

「当たり前!」

「ならなんで宮子は近づいてきて——」


 美波や遥に位置情報が分かる何かが付けられていたとか……?

 それともあくまで勘で近づいて来たのか?


 ピンポーン、ピンポーンピンポーン、

 ピンポーン、ピンポーンピンポーン、

 ピンポーン、ピンポーンピンポーン、


 インターホンが鳴ると、玄関前の階段にいた俺たちは「ビクン」と肩を震わせた。


 まさかヤツが——来たのか。


「はいはーい。ちょっと待ってねー」


 キッチンからタオルで手を拭きながら出てきた母さんはシャチハタを持っており、こんな夜なのに配達員か何かだと勘違いしている。


「やめろ母さん! 玄関にいるのは——」


 時すでに遅し。

 母さんは玄関のドアに手を掛け、パンドラの箱を開いていた。


 玄関先からもの凄いプレッシャーを感じる。

 これは……性欲ののオーラ。


 ハァハァと淫靡な吐息を零しながら、俺の家の玄関先まで現れたサキュバス。

 浜辺で俺を言葉巧みに誘導した……宮子。


「こんばんは雄一くんっ♡」


 月夜に揺らめくそのストレートヘアに、豊満な胸とムチムチな太もも。

 一見美少女だが、中身は真っ黒でドロドロな女……。


「あーら今度は宮子ちゃんじゃなーい。すっかり美人さんになってぇ……てか、おっぱいでっか」


 母さんがビビるほどに確かに胸はデカい。

 だが母さん、今はそこじゃないだろ。


「ささ、みんなも来てるから入ってー、宮子ちゃん」

「はいっ、お邪魔しますっ」


 またしても何も知らない母さんは、宮子を普通に家へ招き入れてしまう。

 厄介なことになった。

 現在この家には美波、遥、宮子の俺をかつてイジメてきたイジメっ子3姉妹がいる。

 彼女たちの目的は様々だが、中でも宮子だけは際立って俺にとんでもないことをしようとしているのが目に見えて分かる。

 このモンスターをどうするべきか……?


「今から雄一と遥ちゃんがご飯だから、宮子ちゃんも一緒に食べていきなさいよ〜!」

「……ふふっ、食べる、ですか」

「うん。あれ、どうしたの宮子ちゃん? もしかしてお腹いっぱい?」

「いえいえ。実は先ほど食べ損ねてしまって。もちろん……


 宮子の鋭い野獣の眼光が俺に向けられた。

 これは非常にまずいことになった。

 宮子は完全に俺をターゲットにしている。

 このままだと食われるどころの騒ぎではない。

 俺の童貞はもちろん、身体中を食い尽くされて骨抜きにされちまう……。


「じゃあ、私はご飯の用意してくるわねー」


 母さんが飯の支度に戻ったことにより、玄関に取り残された俺、宮子、遥の3人。

 宮子は無言のまま鋭い視線を俺に向けてプレッシャーをかけてくる。

 美波や遥は無害だが、宮子に関しては有害でしかない。

 ここで追い払わないと……間違いなくヤられる。


「……み、宮子、何が目的だ」

「雄一くんの童貞」


 間髪容れずにスパッと答える宮子。

 こいつは自分が何を言ってるのか分かってんのかよ。


 やはり他2人と違う、異質な感情を俺に抱いている。

 前に遥が「美波と宮子は俺のことを好きだから」とか言っていたが、(美波は違うとしても)宮子は俺とSE●したいとか言うし、本当に俺のことを好きだった——?


 否。好きとかじゃない。

 きっと、昔イジメてた俺のことを誘惑して、またあの頃みたいにイジメようとしてる。

 宮子の狙いは見え見えだ。


「ど、童貞とか! ストレート過ぎるわよ! この変態女!」

「遥だって、雄一くんとエッチしたいから泊まろうとしてるくせに」

「ち、違うわよ!」


 2人がまた喧嘩をおっ始めようとするので、俺は間に入って2人を制した。


「遥。先にメシ食っててくれ」

「ゆ、雄一?」

「……宮子、表出ろ」

「雄一くん……まさかあおか」

「黙れ変態。さっさと行くぞ」


 宮子に強い言葉で言い放ち、俺は宮子の腕を掴むと一緒に玄関を出る。

 俺は宮子の腕から手を離すと、ドアの前で向かい合った。


 浜辺では言えなかったが、俺は


「雄一くん……遥や美波とのハーレムを邪魔されて機嫌悪いの?」

「違う」

「じゃあ、美波のおっぱいしゃぶりながら遥の可愛い顔にぶっか」

「違う」


 宮子の言葉に惑わされて想像したらダメだ。

 ハマればハマるほど、浜辺の時みたいになってしまう。


「宮子。お前はもう帰ってくれ」

「どうしてわたしだけ除け者にするの?」

「…………」

「わたしじゃダメなの? わたしは遥よりも可愛いし、美波よりスタイルがいい! その上、雄一くんになら何されてもいいと本気で思ってる! 襲われても監禁されてもいい! 何なら今から首輪とリードを着けて夜のお散歩もするし!」


「そういう所なんだよッ!」


「えっ……?」


 俺が声を荒げると、宮子の顔が固まった。

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