4章 三姉妹の思惑

第18話 もぐもぐパクパクイチャイチャ


 俺の後から、母さんと遥がリビングにやってくる。


「どうしたの雄一……? って、美波⁈ アンタなんで雄一の家にいるのよ!」


 当たり前だが、遥も驚きを隠せないようだった。


「もぐもぐ……ごくん」

「どうやってここを割り出した?」

「遥姉さんの位置情報……ユウの家付近で急に消えた」

「……っ!」


 もぐもぐタイムの美波からそう指摘されると遥はたじろく。

 へえ、遥のやつわざわざ位置情報まで消してたのか……意外と賢いな。(まあ結局美波にバレたから無意味だが)


「母さん、なんでこいつを上げたんだ?」

「だってぇ〜、美波ちゃん超可愛いしぃ」

「可愛いければ家に上げてメシまで与えるのかよ!」

「うん」

「うんって……」


 美波は俺がいつも使ってる箸と茶碗を使って、遠慮なくもぐもぐ食べていた。

 最悪すぎる……なんでよりにもよって俺の食器一式を使ってるんだよ……。


「美波……お前は自分のマンションに帰れ」

「……つーん」

「なんだよつーんって」

「……ユウは私が守るってゆびきりで約束したのに、遥姉さんと帰ってくるなんて……最低」

「守るも何も、自転車置き場に俺を置いて逃げたのはお前の方だろ!」


 美波は駐輪場で宮子と遭遇した時、匂いフェチが拗れて俺のサドルを嗅ぎ回る変態になる瞬間をスマホのカメラで宮子に撮影され、その動画を再生されてからは動揺しながら俺の前から消えたのだ。

 俺を裏切って逃げておきながらよくもまあ顔を出せたものだ。それも俺の家に。


「……つーん」

「誤魔化してんじゃねぇ! お前は逃げただろ!」


 あれだけ朝は対宮子ということで威勢が良かった美波だったが、サドルスリスリ動画を宮子から暴露されたことで敵前逃亡した事実がある。

 そもそも、まずはあのサドルスリスリについて問い詰める必要があるのだが……今はそれよりも。


「美波はさっさと帰れよ! 俺が泊める約束をしたのは遥だけだ」

「へ? なにそれ、ユウは遥姉さんとお泊まり会するの?」

「そ、そうよ雄一! い、いくらなんでもそんな言い方ないでしょ!」

「は?」


 遥が珍しく美波のフォローに入ってくる。

 おいおい、どんな風の吹き回しだ?


「そんな言い方したら……ま、まるで雄一が、あたしと二人きりで濃厚な夜を過ごす約束をしたみたいに聞こえるじゃない」


 あ、全然フォローじゃなかった。

 遥は自分が美波に勘違いされるのを避けたかっただけらしい。


「ユウ……遥姉さんとずっこんばっこんしたいの?」

「んなこと言ってねえ」

「……この浮気者」

「そうよ雄一? あなた美波ちゃんと付き合ってるのに遥ちゃんまで美味しくいただこうなんて……プレイボーイはいつかバチが当たるわよ」

「はぁ……母さんは黙っててくれ。あと俺は美波と付き合ってない」


 頭が痛くなって来た俺は、とりあえず美波の前の椅子に座った。

 遥には美波の隣に座るよう促し、俺たち3人は四人がけの食卓で向かい合った。


「で、美波は遥の位置情報を見てからここに来たんだな。目的は何だ? 遥を引き取りに来たのか?」

「違う」

「ならなんだよ?」

「……ユウに、謝りたかったから」

「謝る? 自転車置き場で逃げたことか?」


 美波は母さんに茶碗を渡して、白米のおかわりをリクエストしながら、こくこくと頷いた。


「ユウは私が守る約束だったのに……私は逃げちゃった。だから、ごめん」

「なあにアンタ。宮子から雄一を守るの失敗したの? ププッ。だっさ。あたしは宮子から雄一を守ったわよ」

「……マウント女って一番嫌われる。つまり遥姉さんはウザいしキモい」

「ああ⁈ アンタこそおっぱいしか誇れるモノがないくせに調子乗るんじゃないわよ!」

「おっぱいも無い遥姉さんは負け組定期」

「アンっタァァ!」


「お前ら姉妹喧嘩は他所でやれ!」


 俺は二人を叱って、美波の方に目を向ける。


「美波。お前が逃げた事は許すから、次にサドルで何をしていたのか話してくれ」

「さ、サドル? 美波、どういうことよ」


 事情を知らない遥は眉間に皺を寄せながら美波に問い詰めた。


「……あ、あれは、宮子姉さんが嫌いなパセリの臭いをサドルに付けてたの。だから決して、ユウのお尻の匂いを嗅ぎたかったとかじゃない」

「ああ、サドルってそういうことね。アンタといい宮子といい、ほんっとエグいことするわね。雄一、美波は嘘ついてるわよ」

「…………」

「雄一?」

「美波はずっと、俺のことを宮子から守るって言ってた。だから今のは本当のことなんだろ?」

「うん」

「はあ?」


 宮子はまだしも、美波は変態ビッチじゃないし、俺のサドルスリスリなんて本来ならする理由がない。

 美波は宮子対策をしてくれていたのか。


「ユウを守るんだから当たり前。でもパセリ臭い、取れちゃってたみたい」

「そうか……まあ、結果的にどうにかなったから気にすんなよ」

「う、うん」


 俺が許すと、美波はホッとした顔で母さんからおかわりの茶碗を受け取ってガツガツかき込んだ。


「あ、アンタ……絶対心の中で『計画通りぃ』って思ってるわね」

「……遥姉さん、ぐちぐちうるさい」

「雄一も雄一よ! こんなに甘々とか、やっぱりアンタ美波が好きなんじゃない!」

「そうじゃない。美波はお前や宮子より頭が良いし、まだ信用できるだけだ」

「ハァ?」

「そう……ユウと私は友達だもん」


 美波はふんすと鼻息を荒くし、そのまま白米オンリーでおかわりを食べ切ると、ごちそうさまと言って食器を流しに持って行った。


「ほんっと、アンタってあたしたちのこと嫌いなくせに、美波だけは友達になってたり……やっぱりアンタが変わり者よ」

「うるさいな。文句ばっかり言うなら今夜泊めないぞ」

「……ふんっ」


 遥はいつも通りツンツンしながら椅子から立ち上がる。


「美波も食べ終わったことだし、部屋に案内してよ。美波も泊まるんでしょ?」

「私はユウの部屋に泊まるからいい」


「「ダメ(だ)」」


 俺と遥が同時に否定した。


 ✳︎✳︎


 2階にある4部屋のうちの1部屋は何も置いてない和室になっていて、布団を敷けば客人が寝るスペースくらいはある。

 俺たちは3人で二階まで上がると、その和室に入った。


「どうせ使ってない部屋だし勝手にくつろいでくれ。でも俺の部屋には来るなよ」

「……私、ユウの部屋で一緒にゲームして遊びたい」

「ダメだ」

「むぅ……せっかく面白そうなゲーム見つけたのに」


 美波は不貞腐れ気味にそう言うと、スマホでそのゲームを検索して俺の方に見せてきた。


「ほらこれ。『ハメ乱●スプラッシュブラザーズ(隠語)』」

「な、なんだそのA●みたいなパクりタイトルのゲーム」

「一対一の横スクロール型対戦ゲームで、負けた女の子の服を脱がして好きなだけ襲えるの」

「ただのエロゲーじゃねぇか!」


 美波は頭に?を浮かべながら首を傾げた。


「え、ろげ?」


 こいつ……R18の概念すら知らないのにこんなエグいゲームやりたがってるのかよ。


「そ、それより遥! メシ行くぞ」

「…………」

「遥?」

「えっ、ええ……今行くわ」


 遥は自分の荷物を部屋に置いてからやけに静かだった。

 この部屋じゃ、不満なのだろうか。

 いつも文句ばっかりの遥のことだし、きっとそうだろう。

 俺と遥は二人で部屋を出て、また一階のリビングへ向かう。


「ね、ねぇ雄一」

「なんだよ。あの和室じゃ汚くて寝れないのか?」

「そ、そうじゃなくて……」


 遥は階段の途中で足を止め、ギャルみたいにデコったスマホを俺に手渡してきた。


「どうかしたのか?」


 俺は渡されたスマホの画面に目を落とす。


「それ、あたしたち姉妹が共有してる位置情報なんだけど……車くらいの速度で宮子がこっちに向かってきてるの」


「なん、だと」

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