第13話 城田宮子02
——翌日。
昨日は宮子のことを考えながら寝てしまったから宮子が嫌というほど夢の中に出て来た。
朝から嫌な気分になりながら、俺はいつものように自転車を走らせて高校に登校する。
もうそろそろ6月。
最近、徐々に晴れの天候が少なくなり、雨の日が増えて来た。
今日だって、いつ天気が崩れてもおかしくないだろう。
自転車置き場から昇降口へ向かおうとした俺は、曇り空を見上げながら思う。
自転車通学をしている人間としては雨は最悪だし、午前中だけ曇りで午後から雨というのもタチが悪い。
それにこれから梅雨に入ればカッパを着ながら漕がないと行けないから最悪だ。
昨年の梅雨なんか、一週間くらいずっと雨な上に、台風も接近して暴風雨に見舞われたこともあり、散々な思い出しかない。
しかしまあ、俺にとってはあの三つ子姉妹が転校してきた事の方が台風並みの災害だと思ってるから、それに比べたらマシかもな。
実際、まだ1番の台風は全て上陸していない。
美波や遥には会ったが、宮子はまだその姿すら見かけていないのだ。
美波や遥は小雨と思えるくらい、宮子は思考が読めないし、味方か敵かも分からないほどの八方美人だ。
宮子はグラドルの仕事がある日は東京に行ってて高校には来ないと聞いたが、東京で仕事があるというのに、なぜ宮子は東京からこの高校に転校してきたのか。
そもそもあの三姉妹が親の転勤でも無いのにこっちに戻って来たこと自体が俺にはよく分からない。
美波は「母親に捨てられた」とか意味のわからない事言っていたけど……。
城田家は小学生の頃から母子家庭だったため、あの3姉妹は母親の言うことをいつも守っていた。
でもこうして母親無しで3人だけで東京に来たということは、何かしら母親と衝突したと考えられる。
特にあの母親は、昔から毒親と言ってもいいくらい近づき難い嫌な親だったからな……。
城田家で何かあったことには間違いないのかもしれないが俺には関係ない。
俺は余計な事を考えながら昇降口から校舎に入ると、やけに廊下がザワついていた。
「なんだあの美少女」
「身体つきのエロすぎんだろ」
「あのデカ乳揉みテェ……」
ま、まさか……。
男子たちの反応からしてイヤな予感がした俺は、周りの視線を追う。
すると案の定、視線の先には廊下を歩くヤツの姿があった。
「み、宮子……⁈」
明るい髪色のロングヘアに、アイドルのように可愛らしい顔立ちと、一直線で目に飛び込んでくるその爆乳。(ネットにはHカップあると書かれていた)
足も長くて身長は160後半はある。
雑誌の人気グラドルランキングでも現役女子高生としては最高位の10位にランクインして、ネクストヒロインと業界で期待を集める超人気グラドル。
顔立ちはおっとりしているように見えるが、中身はイジメっ子三姉妹の長女であり、3人の中で一番の変人なのだ。
東京に転校して高校生になってからグラドルになったらしいが……なんでグラドルになった?
元々宮子は不思議な行動をして周りを困惑させるタイプの女子だったが……俺には宮子が何を考えているのか分からない。
とにかく俺はできるだけ会わないように立ち回らないとな。
俺は逃げるようにコソコソと階段を上った。
✳︎✳︎
教室に着くと、俺の席には樋口が座っており、西条と美波の三人でわちゃわちゃ会話を楽しんでいる。
ここまで来れば安心安全だ。
「おっす田邊」
「田邊っちおはよー」
「おはよ西条、樋口」
二人に挨拶しながら机まで来ると、
「ユウ、おはよ」
美波も俺に挨拶してくる。
俺は「おお」と応えて自分の席にカバンを置いた。
「ねーねー聞いてよ田邊っち! 美波ちゃん凄いんだよ? 昨日の部活のとき、フリースロー100パー入ってー」
そういえば美波、昨日は女子バスケ部を見学しに行ってたな。
「でも部活には入らないって言うの! 田邊っちも説得に付き合ってよ」
「……イヤだ。ユウが一緒ならいい」
「相変わらず城田さんは田邊LOVEだなぁ」
「田邊っちも一緒なら入ってくれるの? なら田邊っちもバスケやんない?」
「やるわけないだろ。もう諦めろ樋口」
「えー!」
頭を抱える樋口を他所に、美波は俺の制服の袖をくいっと引っ張った。
俺は美波に耳を傾ける。
「……昨日、遥姉さんと一緒にいたでしょ」
「遥から聞いたのか?」
「ううん……ユウの制服から遥姉さんが使ってるフランスから取り寄せた高級な香水の匂いがした」
こいつ……犬みたいな嗅覚しやがって。
「遥姉さんと……イチャイチャしたの?」
「するかよ」
「でも……こんなに匂いが強いってことは、絶対"えっち"した」
「するわけないだろ!」
「おいお二人さん、なにコソコソ話してんだよ」
俺たちの間に西条の右手が割り込んでくる。
「何でもない。樋口、もうそろそろHRだから席戻れよ」
「バスケ部入ってくれるなら戻ろっかな」
「じゃあ今日は俺が樋口の席に行く」
「そんなにバスケ嫌なの⁈」
「どんまい紗奈。田邊を口説くにはまだ早かったな」
「く、口説いてないやい!」
樋口はぷんすか怒りながら自分の席に戻って行った。
俺は樋口が退いた席に座り、頬杖をつく。
「話……戻していい」
「やだと言ったら?」
「ユウは私が守るって言った。今度遥姉さんの匂いがしたら、もうユウのこと嫌いになるから」
「あーそうかよ。嫌いになってもらって結構結構」
「……ダメ、やっぱユウのこと嫌いにはなれない」
「はあ?」
ものの数秒で前言撤回する美波。
美波も美波で、何がしたいのかよく分からないんだよな。
そもそも俺を守るって何なんだよ。
「お前、なんか今日おかしいぞ」
「……宮子姉さんが帰って来たから、ちょっとピリピリしてた」
「み、宮……」
宮子の名前が出ると、俺はドクンっと脈が飛ぶ動悸症状を自覚した。
宮子という名前を聞くだけで、俺はまだ、怖がっているのか……?
「遥姉さんがどこまで話したか分からないけど、宮子姉さんは……はっきり言ってヤバい」
「や、やばい?」
「だから今日は私と一緒に帰らないとダメなの。分かった?」
美波はやけに真面目なトーンでそう言うと、小指を差し出す。
「ゆびきり……はやくして」
な、なんだよそれ。
でも美波がいれば、もし宮子に迫られても何とかなる可能性がある。
宮子がヤバいっていうのは俺をいじめてくるっていう意味かもしれないし、俺が嫌がっていたことを知ってた美波は、本当に善意で俺のこと守ってくれるのかもしれない。
「……分かった」
俺は(嫌々)美波とゆびきりをして、放課後一緒に下校する約束をした。
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