3章 長女はヤバい
第12話 城田宮子01
遥をマンションまで送ると、俺は自宅に向かって自転車を走らせる。
遥は昔と変わらずウザいままだと思っていたが……意外と変わってた。
昔の遥はいつも傲慢で偉そうで、自分が中心だと思ってるし、イジメの対象だった俺以外にも彼女を嫌ってる奴は多かった。
それでも三姉妹で連んでいたからぼっちにはならなかったが、こうして三姉妹の仲が険悪になった今となっては、性格に問題がある遥だけは周りに馴染むのは難しい。
それを自覚したからか、昔よりも遥は性格が丸くなっていたような気がする。
『ゆ、雄一……アンタのlimeのID、教えなさいよ』
そういえばlimeのID交換したっけな。
俺は頑なに嫌だと言って断ったのだが、交換しないならサドルから降りないと言われ、俺は渋々limeを交換させられた。
あの姉妹は美波といい遥といい強引に話を進めるのがウザい。
その上自分の思い通りに事を進めようとするんだからシンプルにタチが悪いと言える。
目の前の赤信号で止まった時、俺はふとスマホの通知に気がついて、ポケットからスマホを取り出す。
『遥:今日は楽しかった! ありがと! 後でカフェの写真送るね?』
どうしてこいつlimeだとツンツンしてないんだ……。
急に棘という棘を失った遥のlimeに困惑しながらも、俺は返事を考える。
遥ってネット上だと普通になる感じなのか……これはこれで返事しづらいな。
最終的に俺は『写真は別にいい』と返してからポケットにスマホを仕舞い、再び自転車を漕いで海沿いの道路を走り抜ける。
遥とこれ以上仲良くなってもマイナスなことの方が多い気がするのもあって、俺はlimeでも塩対応を心がけることにした。
遥のlimeに対応していたら信号が青になったので、俺は立ち漕ぎで帰路を急ぐ。
街から抜け出し、家へと繋がる海岸沿いの道路を風を切って進む。
この街は海から近い街なだけあって、潮風がとても心地いい。
鼻にスウッと入ってきて、目がイガイガする感じが堪らなく好きなのだ。
昔はよくあの3姉妹に連れられて、あの砂浜まで行ったな……。
鮮明に覚えているのは小4の時の夏休みのこと。
3つ子姉妹の母親が、仕事の都合でしばらく留守にするとかで、あの3姉妹が隣家である俺の家に2日間だけ泊まりに来た。
イジメっ子が泊まりに来るという地獄のシチュエーションだったが、その時に俺の母さんの提案で、3姉妹たちと一緒にこの砂浜まで遊びに来たことがあったのだ。
3人はスク水を着ており、その頃からあいつらのことが嫌いだったとはいえ、あの3人ほどの美少女のスク水を間近で見放題だったのは、あの頃の俺にとって特別な時間だった。
だが、海に来てもあの3姉妹の思考は変わらず、あいつらはずっと俺をどう辱めようか企んでいた。
『ユウ……かけっこで私に負けたら、私のお砂の城を作るの手伝え』
『ダメよ! 雄一はあたしに日焼け止めオイル塗るんだから!』
『もー二人とも。雄一くんは、この前負けた時にわたしと砂浜デートするって約束してるから♡』
3人とも自分勝手な要求を俺に提示してきたのだが、結局あの時は、宮子と一緒にクソ暑い砂浜の上を何分も歩かされた。
あの時の会話はまだ俺も朧げに覚えている。
『雄一くんはさ、わたしたち三姉妹の中なら誰が好きなの?』
宮子からされたその質問に対して、俺はどう答えるべきか悩んでいた。
もし「いない」と答えたら、何か嫌なことをされるのではないかと、自分の身の安全を危惧した俺が出した答えは。
『答えないなら〜、クラスのみんなに有る事無い事言っちゃおっかなぁ』
『……宮子』
『えっ……? 遥じゃないの? 顔なら遥が一番可愛いのに!』
あの時、宮子と言わないとさらに酷いことをされると思って、俺はそう答えた。
『そっかー、そうなんだぁ♡』
あの日の宮子の顔は忘れない。
溢れんばかりの笑みをグッと堪えながら、口元をダラッと緩めた気持ち悪い笑顔。
宮子は昔から変わり者だった。
見た目は男子なら誰でも一度は好きになるほどのクラスのマドンナ。
しかし中身はかなりの変人で、俺の方を見ながらよだれを垂らしたり、ニマニマしたり。
でも宮子って俺のことをイジメるくせに、俺の忘れ物を届けてくれたような。
『雄一くんっ! 音楽室にリコーダー忘れてたよ?』
音楽の授業の後、リコーダー忘れた時に教室まで持って来てくれたり、
『雄一くーん! 教室に体操服忘れてたから持って来たよ!』
教室に体操服を忘れた時なんか、わざわざ俺の家まで届けに来てくれた。
イジメるくせに優しい面もある、そんな所が変人だった。
今も、急にグラドルになったりするし……。
彼女だけは子供の頃から腹の内が読めない。
もしかしたらまだ変人なのかもしれないけど、どうなのだろうか。
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次回から宮子参戦
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