第2話 城田美波01
昔と変わらない顔つきに、ミディアムショートの髪。
それにこの雰囲気は間違いない……。
彼女はかつて俺をイジメてきた城田家の3つ子三姉妹の三女、城田美波だ。
美波はあの西条が舌を巻くくらい、スタイル抜群の美少女に成長しており、特にその身体の肉付きはとても高校生とは思えないくらいエロい所はしっかりムチっとしており、太ももや胸の大きさには目を見張るものがある。
このクラスの女子の中で、最もスタイルがいいと言っても過言じゃない。
でも褒められるのは"見た目だけ"の話だ。
幼馴染の俺はこいつの内面を知っている。
特に三女のこいつはな。
美波は自分からイジワルをしなかったが、姉二人がするイジメに乗る形で、いつも俺をイジめてきた姑息なヤツ。
「…………じー」
隣の席に座った美波は、机に頬杖をつきながら俺の方をジッと見つめてくる。
まるで俺のことを監視しているかのように目を光らせていた。
もしかして姉たちから俺の動向を監視するように言われているのだろうか……?
「じー」
「…………」
「じー」
「…………」
「じー」
じーじー五月蝿えし、何よりうぜぇ……!
「そのじーっていうのやめろ。蝉かよ」
「……みんみん」
さらにウザいのを真顔で言う美波。
はぁ……こいつが何をしたいのか全く分からない。
美波は小学生の頃から表情筋が死んでいるので、彼女の思考を表情なら理解するのは困難を極める。
「ユウ……ちょっとだけ変わった?」
俺は美波を無視して授業の準備を進める。
今の俺は昔みたいに弱くないんだから、無視すればいいんだ。
変にこいつに構うとまたあの頃みたな目に遭っちまう。
ガン無視を決めれば全て解決——。
「ユウはちょっぴり……カッコよくなった」
「は、はあ!?」
や、やや、やっぱりなんか様子がおかしい。
昔の美波はもっとクールで必要最低限のことしか話さなかったはず。
俺がカッコいいとか、そんなこと絶対言わないはずなのに!
「でもね、ユウと同じくらい私も変わった。ユウのこと褒めてあげたんだから次は私も褒めて?」
……なんだ、結局は自分が褒めて欲しいから、俺のことを褒めてきたのか。
相変わらず打算的でウザいヤツだな。
「ほら、褒めてユウ」
「嫌に決まってんだろ」
「私も変わったところたくさんある。おっぱいとか、おっぱいとか、おっぱいとか」
おっぱい一択かよ!?
どうやら身体は成長してもおつむは弱くなったみたいだな。
「そういえば……姉さんたちもユウに会いたがってた」
会いたがってるんじゃなくて、また俺をイジメたがってるの間違いだろ。
あいつらは絶対俺のことをイジメの対象にしか思ってないし、俺だってアイツらと会いたいとは思ってない。
「でも宮子姉さんと遥姉さんは特進コース落ちたから別のクラス。会えないのは仕方ない」
「お、おい待て。あの二人も蒼海高校に転校して来てんのか?」
美波はこくこくと頷く。
それを知った俺はさらに絶望して頭を抱えてしまう。
あの二人もいるってことは……間違いなくまたあの頃と同じ目に遭うだろう……。
「終わったな、俺の学園生活」
「なんで終わる? さっき朝のHRが終わったばかり」
とりあえずこいつには黙ってて欲しい。
これ以上美波と話すのはやめよう。ストレスが溜まるだけだ。
声かけられても無視を決め込めばいい。
「なあ田邊ぇ〜! さっきから城田さんと親しげに会話してるけど、田邊って城田さんと知り合いなのかよー?」
前の席の西条が俺たちの方に椅子を向けると話しかけて来る。
「いや、こいつはただの腐れ縁っていうか……なんていうか」
「私とユウは幼馴染なの」
「ほへぇー! こんな可愛い幼馴染がいるなんて、最高じゃん田邊!」
むしろ逆だ。
最悪すぎて悪夢を見てる気分なんだよ。
何も知らないお前は首を突っ込まないで欲しい。
「あなたは誰?」
「俺? 俺は田邊の親友で西条一樹! よろしくっ」
西条は調子良く白い歯を見せながら言う。
西条のことだ、可愛い可愛いって煽ててるけど、どうせ美波の身体にしか興味ないんだろう。
「あ、二人ともさっそく城田さんと仲良くなってんの?」
俺たちが話していると、いつものように樋口も会話に加わってくる。
「なんかさ、田邊と城田さんが幼馴染なんだとさー」
「へぇ、そうだったんだね? 私は樋口紗奈っ! よろしくね城田さん」
美波はこくりと頷いて応えた。
「そだ。せっかくだし今日のお昼は学食で一緒に食べない?」
おい樋口っ! 余計なことを……。
「お昼……? ユウも一緒?」
「一緒一緒! だよね、田邊っち?」
普通に嫌なんだが。
どうして俺は過去にトラウマを植え付けて来たような元イジメっ子とメシを食わないといけないんだよ……!
「……わ、悪い……俺ちょっとトイレ行ってくる」
俺は言葉を濁しながら無理矢理その場を後にして、教室から出た。
✳︎✳︎
俺はトイレまで来ると誰も入っていない大便に飛び込んだ。
あの美波が俺たちのグループに入って来ることになったら最悪だ。
せっかく俺が新しい自分の世界(蒼海高校)に来て、新しい自分のキャラクターや立場を形成していたというのに、思い出したくない過去(城田三姉妹)が俺のプライベートに土足で踏み込んで来たのだ。
到底許される行為ではない。
とにかく美波には別のグループに行ってもらうしかないな。
用を足した俺がトイレから出ると、トイレの横に大きな胸の女子生徒が立っていた。
「美波……どうして待ち伏せしてんだ」
「ユウの様子がヘンだったから」
様子がヘン?
過去にお前たちからイジメを受けていたんだから、俺が拒絶するのは当然だろ。
どうやらこいつには俺をイジメていた自覚がないらしい。
そりゃイジメっ子てのは自覚がないからイジメをするんだもんな。無理はない。
しかしイジメはもう過去の話だ。
"今の俺"は弱気でもなければ身体も小さくない。
だからこそ、俺の過去を知る美波とこれ以上関わるのは危険……こうなったら、最終手段だ。
俺はポケットから長財布を取り出して、一枚の1000円札を美波に差し出した。
「これくらいしか出せないけど、頼むからこれでもう二度と俺に話しかけないでくれ」
「え……?」
「俺だけじゃない。俺の友達もだ」
「……ユウ、冗談は」
「本気だ」
彼女の目を見てそう言うと、美波は目を細め、俺の方を見上げた。
「ならユウ……昔みたいに勝負しよ」
「勝負……?」
「姉さんたちとよくやってた、"勝った方が何でも命令できる"勝負——」
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