1章 三女は無口な爆乳ちゃん
第1話 再会=絶望
時は20××年5月。
隣の家に住んでたあの三つ子姉妹が転校してから数年が経ち、俺、
「気をつけてね雄一」
「うん、行ってきます」
玄関先で母さんに見送られ、俺は通学用の自転車を走らせて高校へ向かう。
自転車のカゴには通学カバンが入っており、道路整備が行き届いてない田舎道の段差に乗り上げる度、ガタンッと音を立てる。
俺が住むこの街はそこそこの田舎で、車通りも少ない。
海に近いから夏になると人が多くなるけど、行楽シーズン以外はガラガラ。
まだ5月ということもあり、俺は人気のない道路の真ん中を堂々と自転車で走り抜ける。
そんな田舎者の俺が進学したのは県内でも難関と言われている高校で、
家から自転車で30分の場所にある高校で、俺は蒼海高校の2年A組(特進コース)に所属している。
蒼海高校は2年A、Bは特進や進学コースとして高偏差値を誇るが、Cから下のクラスはスポーツ推薦の生徒がほとんどの平凡クラス。
しかしAやBで入学しても成績次第でCとDに落ちることもあるので油断はできないのだ。
その中でもA組をキープするのはかなり大変で、なぜなら偏差値が学年TOP30をキープしないといけないからだ。
「俺も"あの頃"に比べたら随分変わったよな」
三姉妹にイジメられていた頃の俺は、気弱でナヨナヨしてたし、勉強もダメダメで身体つきも周りの女子と同じくらい小柄だった。
自分に自信が持てなかったから、いつまでもあの三姉妹に奴隷のようにイジメられてしまっていたが、今は違う。
15歳になった今は、身体が成長期を経て身長170後半になり、小学生から始めた朝のランニングや、スポーツ少年団でサッカーをやっていたおかげで運動能力も飛躍的に向上した。
俺はもう、昔の弱っちい自分じゃない。
あの三姉妹が去ったことで俺は自分を変えることができた。
気弱で何も出来なかった自分はもういないんだ。
俺は自転車で蒼海高校の校門を通り抜け、駐輪場に自転車を停めると自転車のキーを抜いて昇降口へ向かう。
すると下駄箱の前で男子生徒と女子生徒が俺に向かって手を振ってきた。
「おっす〜、田邊」
彼は一番仲が良い友人の
いつも俺と一緒に行動する間柄の男子で、テンパや指輪に銀のアクセサリーを首にかけており、見た目からしてかなりチャラいように、普段から女子を取っ替え引っ替えしてる。(でも一応A組に入れるだけの頭はある)
「田邊っちおはよっ」
笑顔で小さく手を振りながら挨拶してきたのは、女子バスケ部の
女子バスケ部の次期部長と言われているくらいバスケの実力者でありながら、俺と同じ A組の特進コースに入れるくらい勉強もできる優等生だ。
「二人ともおはよう。二人は一緒に登校してきたのか?」
「まあな。たまたま家の前で会ったからさ」
樋口と西条は家が隣同士の幼馴染であり、俺が西条と仲良くなって一緒に行動していたら、自然と樋口とも仲良くなっていた。
「田邊っちは自転車でしょ? そろそろ夏だし大変だねー?」
「本当だよ。俺も西条や樋口みたいに高校に近ければな……」
「あ、じゃあ紗奈の家に居候すればよくね? そうすりゃ二人は一つ屋根の下で〜」
「ちょっと一樹! アンタ何言ってんの?」
「なんだよ嬉しいくせに」
「嬉しくないし!」
「またまた〜」
相変わらずこの二人は朝からいちゃついてんなぁ……。
俺は二人の喧騒を横に、下駄箱の前で革靴から上履きに履き替えて、二人と一緒に教室へ向かう。
高校に入ってからは友達ができて、昔みたいにイジメを受けることもなくなった。
特に西条と樋口の二人は休日に三人で遊びに行くくらいの仲で、こんなに意気投合した友達は今までいなかった。
今の俺は充実した学校生活を送っている。
あの小学生の頃みたいな屈辱は全くない。
そう、今の俺は……自由なんだ。
「そうだ! ねえねえ聞いてよ田邊っちー! 一樹が週末の映画やっぱパスだって」
「パスって……ホントか西条?」
「仕方ないだろー? B組のきゃわいい女の子とデートする予定が入っちゃったんだからさー」
西条はとにかく女癖が悪く、彼女がいてもいなくても色んな女子をナンパして、デートをしてる。
普段は普通にいいヤツなんだけど、女子が絡むとただの"クズ男"になるのだ。
「おま、デートが入ったって、もう映画の席の予約はしちゃってるんだぞ?」
「まあまあ怒んなって田邊。じゃあさ、せめてお前ら二人で行ってこいよ」
「お、俺と樋口で?」
西条に言われ、俺は樋口の方を見た。
俺と樋口が……二人で。
樋口は目を思いっきり開いて口をモゴモゴさせながら俺を見ていた。
「た、田邊っちと二人きり……も、もう! 一樹!」
「いーじゃん別に。せっかくなんだから二人で行ってこいって。チケットが勿体無いだろ?」
「まあ確かに勿体無いよな。じゃあ樋口、良かったら俺と一緒に——」
「い、いいっ! やっぱこの話はナシで! アタシ先に教室行ってるからっ」
樋口は持っていたカバンで西条の背中をぶっ叩くと、駆け足で階段を上がって行ってしまった。
「いってぇ……! あのバスケメスゴリラ、なんつーパワーだよ」
「大丈夫か西条?」
「お、おお」
樋口はもの凄い足で階段を駆け上がったので、もう背中は見えなくなっていた。
急に機嫌が悪くなるくらい、俺と映画に行くのが嫌だったのかな……。
そりゃ樋口からしたら幼馴染の西条ならまだしも、俺と二人で映画なんて……嫌かもな。
俺たちは三人で仲が良いが、俺と樋口が二人でいる時は若干会話が少ない。
樋口は俺のことを「田邊っち」というあだ名で呼んでくれるけど、そもそも俺と樋口は西条を通して仲良くなったから、俺たちの間には少しだけ距離がある。
「ったく紗奈のヤツ……ありゃダメだな」
「ダメって?」
「……はぁ。田邊は相変わらず
「な、なんだよそれ!」
「しゃーない。紗奈と俺の分のチケ代は後で俺が支払うから、余ったチケットでそろそろお前もオンナを誘ってみろ」
「ええ!? は、ハードル高すぎるって!」
「いいからいいから。お前ならできるって」
俺は西条に背中をバシバシ叩かれながら教室への階段を上る。
西条はノリが軽いので「お前なら」と適当なことを言っているが、高校になって友達が増えたとはいえ、生まれてこの方彼女が出来たことのない俺にとって、女子をデートに誘うのは難易度が高すぎる。
俺が女子を映画に誘う……。
でも昔と違って今の俺は充実してる。
言うなれば転生モノの主人公みたいな成り上がり方をしているんだ。
生まれ変わったんだから、彼女くらい作れるかもしれない。
ついに……俺にも彼女……か。
実行に移せるか分からないのに夢ばかり膨らんでいった。
✳︎✳︎
教室に入ると、俺の隣の席がやけに綺麗な机と椅子に変わっていた。
見るからにツルツルしてて、新品みたいに綺麗で。
この前まではこんな席なかったし、誰か転校生でも来るのか?
「おーい、お前ら席つけー」
担任の女性体育教師・高崎香代子が教室に入って来ると、出席簿を教卓に叩きつけながら呼びかける。
クラスの全員が席に座って朝のHRが始まると、担任の高崎は廊下の方へ向かって「入っていいぞー」と言った。
やはり転校生みたいだ。
俺の隣の席に座るんだよな?
仲良くなれるといいんだが……もし女子なら緊張するな。
教室の前の引き戸が開くと、一人の女子生徒がゆっくり入って来——っ。
「えっ……?」
俺は自分の目を疑った。
前の席に座る西条が「あの転校生めっちゃ可愛いくね?」と俺に聞いてくるが、それに応える余裕がなくなるくらい、俺は頭の中が真っ白になっていた。
嘘だ——嘘だと言ってくれ。
これは完全に浮かれていた俺に対する神からの罰なのだろうか……。
今の俺は別人で、もう敵はいないと思い込んで慢心していた俺に対する……罰……。
「自己紹介しろー」
「はい」
廊下から黒板の前に現れたのは、俺が忘れたくて仕方なかったあの女——。
「初めまして。城田、美波……です」
そう——城田家三つ子姉妹の三女・城田美波だったのだ。
な、なんで
まさかあいつら、
そんなの、そんなのあんまりじゃないか!
「城田の席はあそこな」
担任の高崎に言われて、美波は俺の方へとゆっくりと歩み寄る。
顔や髪型は小学生時代の面影があり、一目で彼女が美波だと分かったが、その身体つきだけは全く違う。
腰回りはスリムなのに、スカートからチラチラ見えるムチっとした太ももと、今にも制服のボタンがはち切れそうなくらい豊かに育った胸元。
歩く度にたゆんと揺れるムチムチな太ももと大きな胸は、男子たちの視線を集めて、太もも派と胸派で見ている場所が両極端になっていた。
一方で俺は、彼女の顔にだけ視線が行く。
城田三姉妹が……帰って来たなんて。
この高校には俺の過去を知る奴が一人も居なかった。
気弱でナヨナヨしていた頃の俺を知る奴も、イジメられていた過去を知ってる奴もいない。
だからこそ今さらあの黒歴史の元凶であるあの三姉妹が来たことで、俺は絶望感に支配される。
俺はまたあの頃のようにイジメられるのか……?
彼女たちのストレス捌け口に成り下がるのか?
「久しぶり……ユウ」
美波は俺の隣の席に荷物を置くと、そっと控えめな笑みを浮かべながら言う。
俺の人生で最低最悪の再会だった。
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