第12話:紹介と打ち上げ花火
「山本くんの召喚できるモンスターって何がいるの?」
ある昼休み、木霊が魔道以外のことで珍しく自発的に話した。
三人の中で会話を投げるのは大抵玉藻か、空亡で彼は基本受け身なのだ。
「あ、それ私も気になる! 将来のパーティーメンバーとしては把握しておきたいところですな……」
「今のところ召喚したことがあるのはククルカン、スライム、シェイプスター、サキュバス、アモンっていう悪魔くらいだよ」
「なんというかバラエティに富んでるというか……」
「ドラゴンはー?」
「ドラゴン召喚して無双することは冒険と言えるのだろうか……?」
空亡にとっては自慢の仲間たちであるが、二人の反応が薄かったことが空亡は悔しかった。
「今度見に来る?」
だからムキになって空亡がそんなことを言うと、玉藻は鼻息荒く頷いた。
「行く行く! いつ? 今日行っていいの?」
「……僕も少し興味あるかも」
さすがに今日いきなりは難しいので後日ということにして、まずは万に許可をもらう必要がある。
〇
休日、万の許可をもらった空亡はサキュバスと昼食の準備をしていた。
「やっほー! 来たよー!」
やってきた玉藻と木霊は手ぶらかと思いきや、やたら大荷物を持ってきた。
そして見知らぬ人が一人。
「その人は……?」
「私のお姉ちゃん! 普段は東京で働いているんだけど――」
鳥羽玉藻の姉、
「こんにちは」
「今日はよろしくね、イデアちゃん!」
「お邪魔します」
昼食を終えると、さっそく空亡はモンスターたちを召喚する――と言っても常に召喚状態なので、声を掛けるだけでモンスターたちは集まってきた。
「ククルカン、スライム、シェイプスター、アモン」
「またどうでも良いことで呼びやがって……」
「お久しぶりです」
ドラゴンやグリフォンなどの物語などでよく扱われるような強力なモンスターに比べ、名前だけ聞くと弱そうに思えるが実際目の前に並ぶと圧巻だ。
玉藻は呆気にとられ、木霊は白目を剥いて震えていた。
「お茶をお持ちしました」
「ありがとう、サキュバス」
「いえ」
エプロンを着けたサキュバスがモンスターたちの中に並んだ。
これで現在、空亡が召喚できるモンスターたちが勢ぞろいした。
「え、サキュバス? 山本くんのお姉さんだと思ってた……」
「まあ似たようなものですね」
「全然ちげーだろうが。 どっちかというと主君を守る暗殺――おお、こわ」
サキュバスが睨むと、シェイプスターが肩を竦めた。
「……私、このままじゃ置いていかれちゃう――
――あの、お願いがあります」
「私はもっと強くなりたい」
「私のスキルは魔物の友というもので」
「だから私と友達に」
強い気持ちがあることは分かるが、本人も整理しきれていないのだろう支離滅裂な願いになってしまっている。
「おいおいおい、今日は遊びに来たんだろ? なら真面目な話はやめよーぜ」
「私は!!」
「おめーの気持ちは分かった。 だけど友達って願われてなるもんじゃねえだろ。 遊んでなるもんだろ?」
シェイプスターの言っていることは至極真っ当だ。
しかし真っ当であることが、そもそも可笑しい。 彼の性格を良く知っている空亡含めモンスターたちは嫌な予感を感じつつ静観した。
「カードゲームで遊ぼうぜ。 勝てたら友達でもなんでもなってやるよ。 ただし負けたら――」
「つまり賭け事?」
「そんなことだろうと思いましたよ。 賭け事で得た友情……より酷いことになっている気がしますが」
「おめーら、うるせえな! 俺だってたまには息抜きがしてんだよォ」
ゲームが始まるとわいわいと一気ににぎやかとなった。
ポーカーでアモンが無双してシェイプスターが不貞腐れたり、大富豪で最下位から抜け出せなくなったシェイプスターが泣きついたり、ある意味平和なまま時は過ぎていった。
「夕ご飯にしましょうか」
「あともう一回だけ!」と懇願するシェイプスターを無視して、サキュバスはさっさとキッチンへ向かった。
それを合図にお開きとなり、空亡たちは冒険者やダンジョンの話に華を咲かせ、木霊が最新の魔道具界隈について語る。
そして夕飯を食べ終えると、やたら嬉しそうな笑みを浮かべた玉藻が持ってきた謎の荷物から花火を取り出した。
「やろ!」
「何持って来たのかと思ったら……ナイス」
「線香花火もちゃんとあるよ」
やたら線香花火推しの木霊も珍しくワクワクした様子で、三人とイデア、そしてモンスターたちは庭へと向かった。
四人で打ち上げ花火をセットしている様子を眺めながら、いつの間にか万が玉藻の姉と乾杯する。
シェイプスターは細かい位置を修正し、サキュバスは切ったスイカとラムネを縁側に準備していた。
ククルカンは巨体を生かして、風よけをしている。 スライムは踊るように跳ね回り、アモンは縁側に座って微笑まし気にその様子を見つめている。
「点火!」
――わあ
花火が湧く出るように火花を散らすと、楽し気な声が上がった。
***
「今日はどうだったの?」
「例の施設の人間は片付けました。 ただ今度は別の組織の人間もいたようで」
空亡が学校に行った後、炊事係として常に召喚されているサキュバスが言葉と不穏な会話を交わしていた。
「連れてきましょうか?」
「僕に自白させる技術はないよ。 そっちでやってくれる? 後で情報だけ共有したい」
「分かりました」
空亡たちが逃げてきた後、何事もないように思われていたが実は施設の人間が何度も派遣されていた。
言葉を尋ねるなんて正攻法ではなく、隠れて様子を伺っていたのだ。 一度自白させたところ空亡とイデアを連れ戻すつもりだったことが判明したので、万は「魔力操作の一貫」と言って空亡に常にモンスターを召喚させている。
炊事係と空亡に思われていたサキュバスは不審者の確保、撃退などを担当しており、他のモンスターたちも各々役割を以って空亡を守護していた。
「なるほど、あなた方の狙いは――
――あの娘でしたか」
空亡たちを狙っていた組織とは別の組織の人間から情報を得たサキュバスは、用済みとなった人間を始末して平然と家事に戻るのだった。
***
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