第8話:悪夢と魔力操作
『やだああああ、行きたくないっ怖いよぉ』
『……ごめんね』
『頑張れ! またすぐ会えるからな!』
『父さん、母さん……いつになったら――』
夢から目が覚めて空亡は目元をこすった。
「すぐってもう四年経ってるし」
空亡は両親と別れて施設に入った時の夢をよく見た。
最近は寂しさよりも鮮明だった両親の顔がだんだんと朧げになっていることが悲しくて仕方がないのだ。
「起きてるみたいだね、準備が出来たら今日は山本くんの訓練をしよう」
「はい、分かりました」
丁度起こしに来た万に頷いて、空亡は気だるい体を起こした。
昨夜言われていたが、今日は空亡の魔力操作を万に見てもらう。 彼には研究というやりたいことがあるため、毎度は無理だが時々アドバイスをくれるとのこと。
今まで一人で教材とにらめっこしながら訓練していたので、人に見てもらえるのは素直にありがたかった。
「じゃあ始めようか。 いつもはどんな訓練をしてたの?」
庭に出て寝間着姿の万があくび交じりに言った。
空亡が施設で行っていた訓練は、まず瞑想し心を静める訓練、そして空の魔石に壊さないように魔力を注ぐことだった。
「う~ん、ダメダメだね」
「ええ?! でも魔力は感情の高ぶりで暴走するから瞑想で静めて、一定の魔力を操ることにより自然とコントロールできるようになるって……理にかなってると思いますけど?」
「確かに確かに、間違ってはいない。 ただ効率は悪いよね、って話だよ」
万が言うには瞑想を取り入れること自体は良いがそれだけやってても感情のコントロールなんて到底無理らしい。 確かに四年も続けていたにもかかわらず、空亡は頻繁に魔力を意図せず漏らしていたので否定できない。
そして空の魔石は訓練ですらないと断言された。
「モンスターを倒すと魔石が手に入る。 そして魔石は現在様々なエネルギーとして利用されている」
「魔石が人の手に渡る時は、そもそも魔力を貯めることのできる特殊な石にモンスターの魔力が充鎮された状態だ。 それを使ったらどうなるか――石だけ残る。 つまり君はその残った石にエネルギーを補充させられていたんだよ」
結構な数を日々こなしていた空亡はかなりショックだった。
ちなみに魔石に魔力を注ぐという仕事が実際存在するそうで、割は良くないが空亡の魔力量であれば食うには困らないくらいには稼げるようだ。
「まあまあ、そう落ち込まない! なんていうかその労力で誰かが喜んでいたと思えば、ね?」
「喜ぶというよりほくそ笑んでいたんじゃないですかね……」
「……とりあえずやってみようか、はい」
空亡は万から紙の鶴を渡されて首を傾げた。
「それは砕いた魔石を練り込んて作った特殊な紙でね――」
ただの物に魔力を通すことは難しいが、これであれば誰でもコツを掴めば簡単に魔力を流すことができるらしい。 そして原理は不明だが、魔法として現象しやすい。
「破かずに鶴を解いて、そして魔力操作で折るんだ。 初めは手のひらの上で、慣れてきあたら空中で。 いくら操りやすいといってもそこまで細かく扱えれば魔力操作もそれなりに熟達していないと出来ないからね」
これならただ魔力を流すよりは確かに魔力操作の上達が見込めそうだと、空亡は納得した。 しかし疑問が一つ、
「わざわざ外に出てきた意味ってあるんですか?」
「いや? なんとなくその方が訓練ぽいかなって」
相変わらず万は掴みどころがなく空亡には理解できなかった。
しかしさすが未知を研究しているだけあって、物知りなんだなと空亡は尊敬の念を込めた視線を彼に向け――
「じゃ、頑張ってー。 暑いから僕は戻るね」
――いや、やっぱりろくでもない大人だったと思い直すのだった。
「空亡何してるの?」
それからしばらく紙を操ろうと試みたが、上手くいかず空亡は不貞腐れて地面に寝そべっていた。
「訓練してた」
「瞑想?」
「それはもうやめたんだ~」
「そうなんだ。 これ、ヨロズがカラナに持ってけって」
空亡はイデアから水筒と、追加の紙を受け取り起き上がった。
(いじけてても仕方ないもんな)
「あ、そうだ」
紙はいくらでも家にあると言われたので、空亡は二枚を鶴ではなく紙飛行機に折った。
「これ、飛ばそう」
「……飛ぶの?」
一つを受け取ったイデアはしげしげと紙飛行機をひっくり返したりして眺めている。
「飛ぶよ、どこまでもね」
細かい操作は難しいが、ただ遠くに運ぶだけなら今の空亡でも出来そうであった。
「じゃあ、行くよ」
「うん!」
「いち、に――」
「「さん!!」」
***
「こんにちはー! 空亡くんいますかー?!」
その頃、家に鳥羽玉藻がやってきていた。
「すみません、空亡様は出ておりまして」
「様っ?! もしかして空亡くんってお坊ちゃま?」
サキュバスが応対に困っていると、奥に居た万が「庭に居るよー」と言った。
「マンおじさんありがとー!」
玉藻が去って行くのを待って、サキュバスは鋭い視線を万に向けた。
「教えて良かったのですか? 訓練の邪魔になるのでは? それに空亡様の特性は秘匿するものとばかり思っていたのですが……」
空亡の特性とはその異常な魔力量だ。
見る物が見れば分かるし、欲に目が眩んだものならば利用しようと考えても可笑しくない。
「あの子は大丈夫。 ここらは田舎なんでね。 都会と違って怖~い大人はいないんですよ」
「……あなたはどうなんですか?」
「さてさて、どうだろうね。 ご想像にお任せしますよ……それに彼女は邪魔というより、むしろ彼の成長に繋がる存在になると思うな」
後ろ手を振って万が家へと入っていくと、サキュバスはため息を吐いた。
「私にできることは少ない。 今できる精一杯を」
彼女はそう言ってキッチンに向かい、きっとお腹を空かせて帰ってくるだろう彼らのためにせっせと昼食を作るのであった。
***
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