第87話 水と月

ーミナモ目線ー


 志木と出会って、共に修行をしていく内に同い年という事もあり徐々に私達は仲良くなっていった。


志木

「ミナモ。また師匠と組み手して怪我しちゃったのかい?」


ミナモ

「うん。師匠はやっぱり強いなぁ。手も足も出ないや」


志木

「顔にまで擦り傷が……ほらこっちに来て。今怪我を治すから」


 志木は私の顔に右手をかざす。すると彼の右手はまるで月明かりのような光を出し、私の頬を優しく照らす。その光は私の傷を癒していく。


志木

「私の能力は私の持つ流動力を放出し、自身や他者の傷を癒す」


ミナモ

「志木の能力は貴方のように優しい能力だね」


 初めて出会った時は生意気な奴だと思っていた。けど、彼の本質は優しい人だ。誰かを救い、導いていけるような優しさを持った人だった。


志木

「まだ名前をつけてはいないけどね」


ミナモ

「『名付け』をしていないの?」


 『名付け』とは能力を扱う上では重要な事だ。自身の能力に名を与える事により、自身に扱いやすいようにする。また能力のイメージがし易くなり能力の発動をし易くする。


志木

「まぁ、そうなんだけどね……。なくても扱えているからしなくともいいかなって思っていてね」


ミナモ

「いいや、『名付け』はするべきよ」


志木

「何故?」


ミナモ

「その方がカッコいいからっ!!」


志木

「え? あ、はい……。そ、そうなんだね……」


ミナモ

「ちなみに私は『名付け』はしっかりした」


志木

「ほう。確かミナモの能力は水を作り出したり、周囲の水分を集めて操作する能力だったね」


ミナモ

「それだけじゃない。応用技で私が作り出した水を体内に入れた魚類や甲殻類などの水中生物を操る事もできる。まぁ、今の私の力量じゃ多くの生物は操れないけどね」


志木

「それは強いな。で? どんな名前にしたんだい?」


ミナモ

「『ファントム・マーメイド』っ!! なかなかカッコいい名前でしょ?」


志木

「……ミナモ……。ネーミングセンスが皆無だったんだね……。能力は強いのに……そのネーミングセンスの所為で台無しだね……」


ミナモ

「そ、そんな事ないもんっ!! とってもカッコいいでしょっ!!」


志木

「あ、はい……」


 まったく、たまに志木は失礼な事を言う。目は切れ長で整った顔立ちのイケメンで優しいのにこういうところがあるから私にとっては失礼イケメンだ。呆れた目で私を見るなっ!!


ミナモ

「それで? 志木はなんかカッコいい名前とか付けないの?」


志木

「うぅん……。そうだね……いきなり言われてもなかなかいい名前が思いつかないよ……」


ミナモ

「なら私が名付けようか?」


志木

「え? ……えっ!? ミナモが決めるのかいっ!? い、いやぁ……そ、それはいいかなぁ……。じ、自分で考えるよっ!!」


ミナモ

「えっと……月明かりのような光を出して……魔法のように傷を癒すから……」


志木

「私の話は聞いてくれないのかいっ!?」


ミナモ

「うぅん……はっ!? 決まったっ!! 名付けようっ!! 貴方の能力の名は『ムーンライト・マジシャン』っ!!」


志木

「む、ムーンライト・マジシャンッ!? ムーンライト・マジシャンだとっ!? えっ!? 流石にダサすぎないかいっ!?」


ミナモ

「ムーンライト・マジシャンっ!! ムーンライト・マジシャンっ!! ムーンライト・マジシャンっ!! ムーンライト・マジシャンっ!!」


志木

「わ、分かったっ!! そ、それにするから連呼しないでくれっ!!」


 志木の能力名は『ムーンライト・マジシャン』になりました。


ミナモ

「やったぁっ!! 『ムーンライト・マジシャン』に決定っ!!」


志木

「……これが所謂……残念美少女ってやつか……」


ミナモ

「むっ。何よ『残念美少女』って……貴方だって失礼イケメンのくせに……」


志木

「し、失礼イケメンッ!? イケメンって言ってくれたのはありがとうだけど失礼とはなんだ。失礼な奴だな」


 ん? なんか志木が呆れたような顔をした後、微笑ましそうに私を見ている……。


ミナモ

「どうしたの?」


志木

「いや、そうやってムキになるところは可愛らしいなって思っただけさ」


ミナモ

「むっ。何よ。私の事を舐めてるの?」


志木

「いや、そんなつもりはないさ……。ところで私達もうすぐ高校生だね」


ミナモ

「能力者を育成する学校だと聞いているね」


志木

「……どんな感じなんだろうね……。私は……マフィア達の所為で……学校というモノにあまり通った事がない……。だから少し心配だよ……」


ミナモ

「大丈夫。私と貴方、2人いればなんとかなるわよ。だって私達、親友でしょ」

志木

「……そうだね。君がいてくれるのなら心強いね」


ミナモ

「今の内にコンビ名でも決めとく?」


志木

「こ、コンビ名だとっ!? そんな子供っぽい事を……」


ミナモ

「えっと……私が水で、志木が月だから……」


志木

「やっぱり私の話は聴いてくれないのかいっ!?」


ミナモ

「よしっ!! 名付けようっ!! 『水月コンビ』にしようっ!! それがいいっ!!」


志木

「もう決まっているしっ!? はぁ……もう好きにしてくれ……。まぁ、いいさ。よろしく頼むよミナモ」


ミナモ

「うんっ!!」


ーミナモ目線終了ー

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